失われた二本の杭
河原の測量杭が二本なくなり、王国軍は帝国の夜襲準備を疑った。セイルが行くと、地面には人の足跡ではなく、増水で押し寄せた流木の擦り傷が残っていた。河幅を示す杭は石に打ってある。流れだけで抜けたとは思いにくかった。
対岸の帝国軍には新しい足場が見え、王国側の若い士官は弓で撃って確かめるべきだと言った。セイルは止めた。撃てば工事の目的を探るどころか、敵の警戒を高める。代わりに上流へ向かい、前日に川を渡った荷車の車輪痕を追った。
二本の杭は、避難してきた漁師の舟を繋ぐ綱に使われていた。漁師は軍のものと知らず、誰も持ち主を名乗らない鉄棒だと思って抜いたという。水が上がる前に舟を守ろうとしたのだ。将校は処罰を求めたが、漁師は杭を返すだけでは舟を守れない。
漁師の妻は翌朝、舟を移した石環の位置を確認しに来た。潮目は日ごとに変わるため、夫が良いと言った場所でも不安があるという。セイルは自分の選んだ係留位置が一季節先まで正しいとは言わなかった。船大工を呼んで、綱の長さと増水時に逃がす方向を確かめた。岸には、また別の仕事が生まれた。
セイルは河岸の古い石環を使う方法を船大工に教わり、舟を移す手伝いをした。その後、抜かれた杭を測量官へ返した。測量官は同じ場所に打ち直すことを拒んだ。基準がずれた可能性があり、最初から測り直す必要がある。
作業は一日延びた。軍議でセイルは遅延の原因を報告し、漁師の名を伏せなかった。同時に、誰にも意味を知らせない杭を河原に置いた軍の側にも問題があったと述べた。川は両国の思惑を聞かず、夕暮れにも少しずつ水を増していた。




