赤い印の倉
帝国の前線から乾燥豆が腐ったとの報告が届き、レオンハルトは倉庫の封印を写した図面を見せられた。赤い印の付いた倉は優先して開けるはずだった。ところが荷役人は赤を危険物の印と誤解し、冬の間ずっと手を付けなかったらしい。
豆の損失そのものより、各州で印の意味が違うことが皇帝を困らせた。港では赤が危険物、鉱山では優先搬出、軍では検査済みを示す。クラウスは軍だけ別の記号を使えばよいと言ったが、運ぶのは軍人だけではない。荷馬車は州を越え、港を通り、農民の息子が倉を開ける。
レオンハルトは各部署の書式を一度に変える案を退けた。まず印だけで判断せず、品名と日付を必ず併記させることにした。文字を読めない人間には、倉の責任者が引き継ぎ時に説明する。説明した者の名も残す。単純な命令はすぐ書けるが、人を集めて教えるには手間がかかった。
倉の印を描き直した職人は、色が分からない者もいると注意した。軍の書記は驚いたが、荷役の現場には赤と茶を区別しにくい者もいた。皇帝は色だけでなく形も異なる印を採用する試験を認めた。厩舎の道具箱で試すと、暗がりでは形の方が確かだった。たった一つの印の変更にも、職人と兵が同じ場所で試す日が要った。
倉庫の責任者は、腐った豆をすべて廃棄するよう求めた。しかし飼料に使えるかもしれないとの意見が出て、獣医と料理人が別々に検査した。人にも馬にも危険な部分は埋め、それ以外も長く保存しない条件で使い道を分けた。
レオンハルトは以前、敵国の誤った命令書を奪えば戦を有利にできると考えていた。今は自国の豆を救うために、同じ文字を正しく読む仕組みを作っている。戦争をする国家の弱点は、敵兵の剣先ばかりにあるわけではなかった。




