凍土の下の水
王国の野営地で井戸の水が濁り始めた。セイルが確かめたのは井戸の底ではなく、丘の反対側で掘られた軍の厩舎だった。雪の下には細い溝が通っている。かつて畑へ清水を流していた溝を、厩舎の排水に使う者がいた。凍った土が水を止めていたが、昨日から緩み始めていた。
救護所では傷を洗う水を優先し、炊事係は雪を溶かして凌いでいた。ダリオは井戸の封鎖を命じたが、宿営する兵と避難民を合わせれば近くの水場だけでは足りない。セイルは村の井戸守を訪ね、水がどの地層を通るのか聞いた。老人は古い暗渠を知っていたが、軍の厩舎ができてからは近づけなくなったという。
工兵の立ち会いで厩舎の下を掘ると、石組みに馬の糞が詰まっていた。セイルは土を掘る場所を選べても、水を清める魔法は使えない。浄水術師はいたが、一日に扱える量には限りがあった。井戸を捨てる方が簡単でも、それでは春の村が困る。
浄水術師の少女は、井戸を見ながら、自分の魔力で濁りが消えても見えない病まで消えるわけではないと言った。セイルは井戸守へ、試しに汲んだ水を誰にも配らないよう伝えた。桶の底に沈む砂は薄くなったが、飲むための検査は明日の朝に持ち越された。宿営地の炊事係はその夜、遠い水場まで二度歩いた。
厩舎を西へ移し、暗渠を洗う。村の者が長く使っていた水路の上には建物を置かない。兵の不満は出たが、馬を移すうちに床下の泥が予想以上に深いと分かった。あのままでは馬の脚も傷めただろう。
夜、井戸守は濁りの落ち着いた水を桶に汲み、色を確かめた。まだ飲めるとは言えない。セイルは検査が終わるまで封鎖を続けるよう頼んだ。正しい場所を見つけても、清い水になるまでの時間は人の手で縮められなかった。




