封蝋の裏の冬
レオンハルトは渡し場の第一便が無事に終わったと聞き、輸送記録の束を開いた。薬草は予定より少なく、冬衣は予定より多い。申請した人間の欲しい物と、届けられた物は一致していなかった。皇帝は不足分を調べさせたが、荷主に責任を押し付けることはしなかった。雪で通れなくなった道があり、売り手も冬の仕入れに苦しんでいる。
宰相リディアは「王国がこの合意を宣伝に使うかもしれません」と言った。レオンハルトは使節が帰るときの顔を思い出した。あの男は降伏しないと明言していた。輸送の約束を王国が誇るなら、国王にも民を守ろうとする理由があるのだろう。宣伝を理由に荷を止めれば、帝国だけが狭量に見える。
クラウスが冬の攻勢について再び尋ねた。皇帝は急いで決裁せず、橋の氷と兵の装備を調べた結果を待つと答えた。待つ間にも王国は丘を固める。判断を遅らせるほど敵が強くなる可能性はある。それでも準備のない攻撃が味方を失わせることも、同じように確かだった。
その夜、皇帝は妹エリスの部屋に明かりが灯るのを見た。子供はもう眠る時刻だが、窓辺で本を読んでいるらしい。呼び寄せて叱る代わりに、明日の朝食で近況を聞こうと思った。
皇帝は封書へ添える輸送一覧を確認し、薬草の不足数に二重線を引いた。数字を隠すためではなく、次便の目標へ移すためだった。書記は署名済みの書類を乾かす台へ運び、窓を閉めた。冷えた室内に、封蝋の淡い匂いだけが残った。
執務机の上には、王国へ送る次の封書が残っていた。渡し場の安全について、問題点と修正案を書いたものだ。そこには降伏も撤兵も記されていない。皇帝は最後に署名し、封蝋が固まるまで紙を動かさなかった。帝国の兵が守る川の向こうにも、同じ冬を暮らす人々がいる。その事実は地図の色が変わっても消えなかった。




