雪解けを待つ丘
王国軍の丘には、帝国と取り決めた民間輸送の便が無事に終わった知らせが届いた。兵たちは喜ぶ者と警戒する者に分かれた。セイルはどちらにも賛成せず、次に同じ手順を行えるかを確かめた。一度だけ上手くいった仕組みは、まだ習慣になっていない。
ダリオは王都からの返書を見せた。国王アルベルトは臨時参与の働きを評価し、セイルに任期の更新を打診するつもりだという。命令ではなかった。セイルは断ることもできる。しかし丘の仮設畑、戻れない家の鍵、川の橋番の名が胸に残っていた。
「軍師の肩書が欲しいわけではありません」とセイルは言った。「私も肩書を欲しがっているわけではない」とダリオは返した。将軍は以前より口数が少なくなったが、セイルの意見を聞く時には地図だけでなく現地の報告も机に置くようになっていた。
夕方、丘のふもとで農婦エルダが土を掘っていた。雪の下に埋めた豆の袋を確かめるためだ。袋は破れておらず、種は乾いたままだった。「春になったら蒔けるわ」と彼女は言った。春までここにいられるかどうかは、誰にも分からない。
エルダは畑の端へ置いた石を軽く叩き、春になったらこの位置から鍬を入れると教えた。セイルは覚えておこうとしたが、軍務が続けば細かな位置を忘れるかもしれない。農婦に地図の写しを渡し、同じ印を付けてもらった。春の仕事は春の人間が決められるようにしておきたかった。
セイルは丘の上に戻り、対岸の帝国の灯を見た。皇帝はまだ兵を引かない。王国も守りを解かない。それでも川を越えた荷車があり、両岸で手当てを受けた者がいる。雪解けが来るまでに何が変わるか分からない。彼は白い石を一つ拾い、次の見張りが迷わぬ場所へ置いた。




