三つの鍵
渡し場の安全協定が王国側へ届くと、セイルはダリオとともに荷の検査場所を見に行った。王国兵は帝国との約束を疑い、民間の荷に軍用品が混ざることを恐れている。協定を守りながら不正を防ぐには、誰が箱を開くかを決めなければならない。
荷主が一つ、王国の役人が一つ、帝国側が一つの鍵を持つ仕組みが提案された。だが同じ箱に三つの錠前を付ければ、検査のたびに三者が揃う必要がある。遅れれば薬や食料が傷む。セイルは箱を開ける場所を一つに定め、立会人が署名する方法を勧めた。
ダリオは「書面で敵を信用できるか」と問う。セイルは「信用し切れないから、確かめる方法を残します」と答えた。相手が約束を破ったとき、何が起きたか分かるようにするためだった。
初回の荷には薬草と冬衣が積まれた。検査は長引いたが、荷主は辛抱強く待った。途中で箱の底が抜け、古い布が泥に落ちた。セイルは近くの兵と拾い集め、検査係へ破損を書き留めさせた。協定を守るだけでは、荷物が無事に届くとは限らない。
箱の底が抜けた商人は、その場で弁償を申し出られて困惑した。布は古く、値段を付けにくい。セイルは捨てたくない物なら修繕を頼める職人を紹介すると伝えた。商人は金より針仕事を望んだ。価値を決めるのは軍の秤だけではなかった。 職人は布を縫い直す際、誰の持ち物か分かる小さな印を残すと約束した。破れても、持ち主まで失わせないためだ。
夕刻、荷車はようやく川を越えた。セイルは三つの鍵を持つ案を否定したことを思い返し、次回は荷の種類ごとに検査時間を変えるよう提案した。約束は守るためにある。守れないほど複雑なら、仕組みを直す必要があった。




