和平ではない使節
帝都へ王国の使節が来た。目的は和平ではなく、国境の難民が使う渡し場の安全を取り決めるためだった。レオンハルトは使節を迎え、会議の席へリディアを同席させた。王国の提案は、週に一度だけ民間の荷を通す時間を設け、双方の兵が武器を向けないというものだった。
クラウスは敵がその時間を利用して偵察する危険を述べた。使節は否定しなかった。人が通る限り、誰が何を見るか完全には制限できない。しかし渡し場を閉じ続ければ、病人も食料も川を越えられない。皇帝は条件を探った。
双方が渡す荷を事前に記録する。武器と軍用地図は持ち込まない。立会人には以前の捕虜交換を取り仕切った塩商人を選ぶ。合意は期限を設け、違反があれば停止できるようにする。使節は少しずつ譲り、レオンハルトも軍の面子を理由に拒まなかった。
会議が終わると、使節は「王国は降伏しません」と念を押した。皇帝は頷いた。「帝国も兵を退かせぬ」双方とも、戦争を終える権限をこの席へ持ってきていなかった。
塩商人は立会人の依頼を受け、報酬より先に自分の船が沈んだ場合の責任を尋ねた。レオンハルトは軍が借りる船の補償範囲を明記させた。善意を求めるとき、損害のすべてを相手へ背負わせてはならない。商人は条文を読んでから、ようやく首を縦に振った。 その紙にも、双方の封蝋が置かれた。
合意書には細い文字で、冬季の民間荷輸送についてと記された。書面を持ち帰る使節を見送りながら、レオンハルトは和平でない約束にも重さがあると知った。川を渡る一人の暮らしを守ることは、戦を止めることより小さくても、無意味ではなかった。




