子供が描いた道
避難学校の子供たちが描いた絵が、セイルのもとに届いた。戦争の絵ではない。家へ帰る道、畑の木、橋の近くの井戸。先生は子供たちに故郷を思い出して描く課題を出したという。セイルは絵を壁に並べ、一枚だけ気になるものを見つけた。
小さな少年が描いた橋の下に、細い通路がある。軍の地図にはない。少年に尋ねると、夏に友達と水を避けて通った古い排水路だという。セイルはそこが軍の突破路になるかもしれないと考えた。しかし子供の記憶だけを頼りに兵を動かすわけにはいかない。
彼は現地を確かめるため、村の年長者を探した。老人は排水路の存在を認めたが、今は崩れていて通れないと言った。さらに、その出口は畑の水を逃がす場所でもある。軍が土嚢を詰めれば、雪解け水が村へ溢れる危険があった。
セイルは排水路を軍の秘密路として使う案を取り下げた。ただし雪解け前に修理が必要だと、村の役人へ伝えた。子供の絵が見つけたのは敵の弱点ではなく、故郷が抱えた見えない傷だった。
先生は絵を壁へ貼る前に、故郷の場所を言いたくない子供もいると説明した。セイルは誰の絵かを尋ねず、描いた場所の危険についてだけ話を聞いた。ある少女は村の名前を書かなかったが、水門の形だけは正確だった。思い出を守ることと、役に立つ情報を集めることは両立できる。 描かない自由もまた、教室には必要だった。
少年は「ぼくの道、間違っていたの」と尋ねた。セイルは絵を返し、「道はちゃんとありました。今は通れないだけです」と答えた。少年は笑い、排水路の上に黄色い花を描き足した。春が来れば、そこに花が咲くのだという。




