窓辺の鉛筆
レオンハルトの書斎で、地図を描く鉛筆が一本折れた。侍従が新しいものを持ってこようとすると、皇帝は短くなった芯を拾い、紙に線を引いた。書き直そうとしていたのは、王国の丘を攻める三つの進路だった。
一つは最短だが川の氷が薄い。二つ目は遠回りで、食料を運ぶ車が増える。三つ目は山の尾根を使うが、吹雪のときに兵が孤立する。どれも万全ではない。レオンハルトは軍の指揮官へ、新しい情報が揃うまで三案を維持するよう命じた。
リディアは、皇帝が長く机に向かいすぎていると注意した。「お眠りにならなければ、判断を誤ります」彼は頷いたが、視線は地図に残った。自分の頭だけで答えを出そうとする癖は、父の存命中からあった。
先帝ならどうしただろう。あの人は開戦を避けただろうか。それとも、自分と同じ地図を見て同じように迷っただろうか。レオンハルトは答えを想像し、やめた。死者に決断を委ねても、生きている兵の足場は変わらない。
レオンハルトは眠る前に、書斎の外で待つ伝令へ明朝まで急がなくてよい報告を渡した。大至急と書かれた書類も、開いてみれば数日後の納期だった。急ぐ必要のない仕事を急がせれば、本当に急ぐ知らせが紛れる。伝令は礼を言い、廊下の灯りを一つ消して帰った。 翌朝、伝令は眠った顔で執務室に現れた。皇帝はそれを怠慢とは思わなかった。眠った者ほど正しく走れる日もある。
寝室へ向かう前、皇帝は窓辺に折れた鉛筆を置いた。翌朝には新しい測量報告が届く。机上の三本の線は消すためではなく、現地の人間が何を見たか確かめるために残してある。判断を急がせるのは敵ばかりではなく、自分の胸にある焦りだった。




