ひとつ余った寝台
帝国軍の野戦病院から、患者数と寝台数が合わないと報告が来た。寝台が一つ余っている。普通なら喜ぶべき数字だが、レオンハルトは患者の名簿に誤りがないか確かめさせた。誰かが帰還したのか、移送されたのか、あるいは数え忘れられたのか。空席には理由がある。
調査の結果、兵が一人、治療の途中で故郷へ帰されていた。本人が歩けるため、事務官が退院として処理したという。だが傷口は塞がっておらず、医師の許可もなかった。皇帝は病院へ連絡し、兵を追うのではなく、家族へ治療の案内を送らせた。
軍医は激怒した。「歩けることと治ったことは違います」レオンハルトは同意し、退院決裁に医師の署名を必要とする手続きを定めた。ただし急ぎの移送が滞らないよう、代行できる医師も指定した。
空いた寝台には、新たな負傷者が運び込まれた。木を切っていたときに斧が滑った工兵である。戦場へ剣を向けなくても、軍には傷が絶えない。皇帝は軍医に治療を任せ、代わりに工具の事故を減らすための記録を集めた。
宿場の医師は帰郷した兵が通り過ぎたと聞き、傷の様子を知るため手紙を書いた。皇帝は医師への礼金を認めたが、本人の病状を軍の広報に使うことは禁じた。一人の回復は喜ばしい。しかしそれを示して他の重傷者の苦しみが消えたように語るべきではなかった。 所在を確認した書記は、報告を一段下の欄へ移した。
夜、病院から二通目の報告が届いた。帰郷した兵はまだ家へ着いていないが、道中の宿場で休んでいることが確認できた。レオンハルトは紙を閉じた。一つ余った寝台から始まった仕事は、まだ終わっていなかった。




