雪明かりの伝令
帝国軍の夜間伝令が、王国の守備位置を誤って報告した。雪に映る月明かりで兵の影が大きく見え、実際より多くの隊列がいると思ったという。皇帝レオンハルトは報告の数字を一度消し、斥候が見たものと推測したものを分けて記載させた。
クラウスは敵の兵が増えたなら早く叩くべきだと言った。だが実数が分からないまま攻めれば、少ない敵を追って深く入りすぎることも、多い敵へ無謀に挑むこともある。レオンハルトは昼間の観測を待った。
夜明け、雪はさらに降り、対岸の姿は見えなくなった。観測できる状況を待つ間にも、王国軍は守備を整える。皇帝は時間を失う苛立ちを覚えた。それでも待つ判断を変えなかった。知らない敵の数を、急ぎたい気持ちで埋めてはならない。
午後、斥候は王国軍の旗が少ないことを報告した。昨夜の大きな影は、雪を被った木立だったらしい。レオンハルトは誤報を罰せず、夜間観測の記録に月の位置を記す項目を加えた。いつも見ている風景も、光が違えば別のものになる。
斥候は夜の影を数えたとき、兵の松明の位置だけを目印にしていた。皇帝は光源が動く場合の見え方を確認するため、宮殿の庭で小さな実験をさせた。庭師の持つ灯を木の後ろへ移すと、影がまるで別の人数に見えた。再現できる誤りは、注意を伝えるだけより役に立つ。 松明一つで、人影の数は簡単に変わった。
夕暮れ、伝令の若者は皇帝に謝罪した。レオンハルトは「見たことを書いたのはよい。数を断言したのが誤りだ」と答えた。若者は頷き、次の巡回へ向かった。雪明かりに照らされた道を、今度は自分の目を疑いながら歩くことになる。




