寒気の中の条件
レオンハルトは前線のクラウスから、王国軍が次の丘を補強しているとの報告を受けた。冬が深くなる前に攻めれば、敵が工事を終える前に到達できる。しかし渡河路の凍結が始まっており、補給車が遅れる可能性がある。将軍は好機と危険を並べ、皇帝の判断を求めた。
「三日の晴天が続けば前進する」とクラウスは言った。皇帝は予報を出した観測係へ、根拠を尋ねた。山の気流が変わりやすく、三日間の確実な晴天は予測できないという。条件の一つが曖昧なら、命令全体が曖昧になる。
レオンハルトは攻撃の準備は進めさせたが、実行は別の報告を待つことにした。兵糧が前線へ届くこと、負傷者の搬送路が確保されること、氷の厚さを工兵が確かめること。どれか一つが欠ければ、攻撃しない。クラウスは機会を逃す不安を隠さなかった。
「条件を満たすまで敵が待つと思われますか」と将軍が問う。「待たぬだろう。だから守りの条件も同時に整えよ」皇帝は予備隊を橋の近くへ置き、敵の襲撃に備えるよう指示した。
古い川守の帳面には「氷鳴りは上流から来る」と書かれていた。皇帝はその表現を不思議に思い、工兵に意味を尋ねた。川の曲がり角で氷の動きが変わると、下流へ音が届くらしい。言葉は曖昧でも観測の手掛かりになる。レオンハルトは帳面を写す際、分からない箇所も勝手に直さず残すよう命じた。
夜半、前線から氷の上に水が浮いていると報告が来た。気温は下がっているのに、川の流れが氷を薄くしていた。皇帝は攻撃の条件に、川の音を聞く工兵の経験を加えた。地図には載らない警告を、無視するつもりはなかった。




