冬の一歩目
丘の斜面を歩くセイルの前で、若い歩兵が突然膝をついた。脚が痙攣し、指先が白くなっている。兵は寒さのせいだと言ったが、軍医は疲労と脱水を疑った。冬の行軍では、汗をかかないから水を飲まない者が増える。
セイルは兵を背負おうとしたが、道は狭く、自分の脚も長旅で疲れていた。二人で無理に下れば、転落する危険がある。彼は近くの石に腰掛け、同行した兵に担架を呼びに行ってもらった。最適な行動が「進まないこと」になる場合もある。
待つ間、歩兵は故郷の話をした。雪の季節になると、母親が庭の木に鳥の餌を置くという。セイルは話を聞きながら、丘の向こうに見える帝国の煙を眺めた。敵の兵も同じ寒さを受けているはずだ。
担架が到着したとき、歩兵は立とうとした。仲間へ迷惑を掛けたくないと言う。セイルは彼の腕を支え、「ここから歩いて下れば、明日はもっと長く休むことになります」と告げた。兵はようやく担架へ身を横たえた。
軍医は倒れた兵の水筒を見て、ほとんど減っていないことに気づいた。本人は喉が渇かなかったと言い、周りも異変を見逃していた。セイルは行軍時の休憩に水を飲む時間を設ける案を出した。ただし全員が同じ量を飲めばよいわけではなく、身体の大きさや仕事に応じて調整が要ると軍医が付け加えた。 医師は水筒の口を確かめ、凍ると開きにくいことも指摘した。セイルは布で覆う方法を兵に教えた。
本営に戻ったセイルは、休憩時に飲む水の量を記した紙を壁へ貼るよう軍医へ頼んだ。強い兵ほど自分の限界を見過ごす。冬が始まってから、敵の刃を受けずに倒れる人が増えたことを、彼は見逃せなかった。




