割れた硝子
前線の夜警所で、敵の灯を確かめる望遠鏡が壊れた。硝子が欠け、遠くのものが二重に見える。セイルは道具を持った兵から話を聞いた。前日の見張りが慌てて落としたらしい。兵は処罰を恐れ、割れた部分を隠して使っていた。
二重に見える旗を、本当に二本あると報告したことが分かった。ダリオは激怒したが、セイルは壊れた望遠鏡で敵の数を判断する危険を先に指摘した。報告を訂正し、目視できる範囲を狭めて警戒を続ける。見張りは減るのではなく、隣の台と連絡を増やして補う。
兵は「落としたときに申告すればよかった」と言った。セイルは頷いた。しかし壊した者を責めるだけでは、次に壊れた道具も隠される。修理費を記録し、事故の報告窓口を別に作るよう勧めた。
望遠鏡を工房へ運ぶ途中、セイルは硝子越しの夜空を眺めた。割れた視界では星が一つずつ増えて見える。現実の星は増えていないのに、見る道具が変われば数も変わる。自分の《適正》も、知らない情報まで与えてくれるわけではない。
壊れた望遠鏡を使った兵は、以前から片目の視力が弱かったと打ち明けた。セイルは彼を職務から外せとは言わず、軍医に測ってもらうよう勧めた。夜間の見張りだけが軍の仕事ではない。本人の視力を知れば、伝令記録や昼の観測で役立つ可能性があった。秘密にしたまま苦しむより、できる仕事を探せる方がよかった。
翌朝、見張り台には新しい望遠鏡が届いた。古いものは硝子職人へ預けられた。兵が誤りを報告したことは記録されたが、軍法会議にはならなかった。正しい報告を続ける方が、砦の安全に役立つとダリオが認めたからだった。




