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夜が明けた。
山の朝は冷たかった。霧が低く漂い、木々の間に白い帯を作っていた。俺はまだ岩の影にいた。動けなかったわけではない。ただ、動く理由を見つけられなかった。
ゼノスは貫かれた。しかし、堕天使族の生命力は人間の比ではないと聞いたことがある。ルシアは竜人族だ。ゴブレンも、アラクネも、フォレも――簡単には死なないはずだ。
そう思わなければ、動けない。
俺は、岩の影から這い出た。
山の霧の中で、スライムが一体、転がりながら前を向いた。
魔王の眼の封印解除まで、あと三十七名。大魔王派の首領は、俺を最優先で狙っている。仲間は散り散りになり、消息が分からない。
それでも、逃げ続けるだけなら……なぜ、魔王候補として生まれた。
山の奥から、風が吹いた。霧が揺れ、木々の葉がざわめいた。その音の中に、俺は微かな魔力の残滓を感じた。遠い、しかし確かな魔力の気配。
誰かいる。候補者か、それとも……
俺はその方向に向かって転がり始めた。山の深い緑の中を、最弱の魔物が、一人で進んでいく。
涙は出ない。
だから、前に進む。それしか、できることがなかった。




