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ルシアたちのアジトは、近くの廃村にあった。
到着してみると、そこにはすでに数名の魔王候補が集まっていた。それぞれが異なる種族の頂点として生まれた者たちだ。しかし、ルシアが集めたのは戦いに向かない候補者たちだった。体が弱い者、戦闘より知識を好む者、そして……明らかに俺のような、存在自体が弱い者たち。
魔法書を山積みにした隅の席に、目が四つある少女が座っていた。蜘蛛族の候補者、アラクネ・シルク。続いて、鍋をかき混ぜている老人のような姿の小鬼族、ゴブレン。そして、植物に覆われた岩の上で眠っている樹妖精族の少年、フォレ。
「新入りね。スライム……初めて見たわ、魔王候補のスライム。記録にもない」
アラクネが四つの目でじっと俺を観察した。
「珍しいな。食べてもいいか?」
ゴブレンが鍋から顔を上げて言った。
「だめよ、ゴブレン。客でしょ」
ルシアに窘められたゴブレンは、不満そうに鍋に戻った。
その夜、ルシアは俺たちに情報を共有した。
「今代の魔王候補は全部で二百四十七名いる。そのうち、すでに十一名が……消えた。候補者を強制的に狩り、魔力を奪って自分のものにしている者がいる。私はその候補者を、大魔王派と呼んでいる」
……魔王候補を狩るのか。ならば俺のような最弱は真っ先に標的になる。
「ところで、ヴォルク。あなた、封印されているスキルがあるでしょう?」
ルシアが突然、核心を突いてきた。俺は驚いて彼女を見上げた。
「……なぜ分かる?」
「あなたの核から、封印の文様が見えるのよ。竜族の目は、魔法的な封印を見抜く力があるから。……その封印、魔王の眼でしょう。古文書に記録がある。数百年に一度しか現れない、全ての魔王候補の力と位置を見通す瞳。その封印を解いた者が……過去の魔王の多くだった」
……全ての候補者を見通す?そんなとんでもないスキルが、このスライムの体に封印されているのか。
アラクネが書物を開いて割り込んだ。
「封印の解除条件は、百名の魔王候補と接触し、その魔力の一端に触れることよ。戦わなくていい、接触するだけでいい。つまりあなたは……戦わずして、全候補者の情報を手に入れられる情報塔になれる」
沈黙が落ちた。
俺は己の核の中で、静かに思考した。
情報は力だ。どの世界でも、どのゲームでも。マップ情報を持っている者が、戦略上の圧倒的優位に立つ。魔王の眼が解放されれば、俺は最弱のスライムでありながら、エクシリアで最も「見える」存在になれる。
「……協力する。ただし条件がある。集めた情報は全員で共有する。独り占めはしない」
ルシアは一瞬目を見開いて、それからゆっくりと微笑んだ。
「……いい取引ね、ヴォルク。スライムにしては、ずいぶん大きな声で言うじゃない」
「最弱だからって、黙ってるつもりはない」
部屋に小さな笑いが広がった。フォレが目を覚まし、眠そうにこちらを見た。ゴブレンが鍋をかき混ぜながら鼻を鳴らした。アラクネが四つの目でにやりとした。
俺は、このぼろぼろの廃村の中で、仲間というものを初めて得た気がした。




