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三日が経った。
俺は洞窟の奥深くに潜り込み、ひたすら小虫を吸収して生きていた。スライムとしての本能――というより、ステータス画面を見ながら計算した戦略として、吸収することで少しずつ魔力を蓄えられると気づいたからだ。
虫一匹で魔力が〇・〇〇一増える。
千匹食えば一増える計算か。気が遠くなるな。
しかしその日、洞窟に来訪者があった。
岩をえぐるような足音。複数。鎧の擦れる金属音。俺は反射的に岩の隙間に潜り込み、息を――いや、スライムに息はないが――気配を潜めた。
「このあたりに魔王候補の反応がある。間違いない」
女の声だった。落ち着いた、それでいて剃刀のように鋭い声。俺は岩の隙間からそっと覗いた。
現れたのは、三人組だった。先頭に立つのは銀色の鎧に身を包んだ背の高い女性。その後ろに、山のように巨大な鬼族の男と、羽を持つ小柄な妖精族の少女。三人とも、明らかに強者の気配を纏っていた。
「しかし隊長、スライムしかいませんよ?ここ」
鬼族の男が頭を掻いた。
「スライムの巣に魔王候補が?ありえないわ。センサーが壊れてるんじゃないですか」
妖精の少女が銀翼を揺らした。
銀鎧の女性は答えなかった。ただ、ゆっくりと洞窟を見回し、その視線が、俺の隠れている岩の隙間で止まった。
見られた。
心臓が跳ねた。いや、スライムに心臓はないが、内部の核がびりびりと震えた。
「……そこにいるのは分かっているわ」
女性が静かに言った。逃げられない。俺は観念して、岩の隙間からずるりと這い出た。
三人の視線が集まる。沈黙。
「……スライムじゃないですか」
「スライムですね」
銀鎧の女性だけが違った。彼女は膝をついて、俺の目――核の部分に視線を合わせた。そしてゆっくりと、告げた。
「あなたが……魔王候補ね。こんなところに隠れていたなんて、驚いた。私はルシア・ヴァルハルト。竜人族の魔王候補よ。あなたに会いに来た」
……竜人族の魔王候補。確か、力と魔力両方においてエクシリア最上位の種族の一つだったはず。この人も、候補者なのか。
俺はとっさに、一歩後ずさった。同じ候補者ということは、敵の可能性が高い。
「逃げなくていい。私は今代の魔王候補たちに声をかけて回っているの。目的は協力よ」
「……協力?」
スライムに声帯はない。しかし魔王候補の称号のおかげか、俺の核から音波が出て、言葉になった。ルシアは少し目を細め、それから微笑んだ。
「ええ。今代の魔王候補の中に、ルールを無視して他の候補を狩り始めている者がいる。私たちは……弱い候補者を守りたい。あなたのような」
弱い候補者を、守る……か。
俺は少し考えた。この申し出が罠である可能性もある。しかし、洞窟の奥で虫を食いながら成長を続けるよりも、情報を得る方が遥かに効率的だ。それに。
「魔王の眼(封印中)」。このスキルが解放される条件を知るためにも、外に出る必要がある。
俺はゆっくりと、彼女の方に向けて転がった。承諾の意思表示として。
ルシアは驚いたように目を丸くして、それから笑った。その笑顔は、竜族の候補者らしい威圧感とは全く正反対に、どこか子どものように無邪気だった。
「よかった。……名前は?」
「……ヴォルク。とりあえずそう名乗ることにした」
「ヴォルク。いい名前ね。狼を意味する古語よ、それ」
……スライムに狼の名前か。笑えないジョークだな。
こうして俺は、最弱の魔物として、エクシリアの広い世界へと踏み出した。いや、転がり出た。洞窟の入り口から差し込む光が、スライムの透明な身体を虹色に散乱させた。




