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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第97話 祝辞という圧力

 その男は、祝いの言葉から入った。


「このたびは、誠におめでとうございます」


 ルーデン王国大使、アルトマン。


 半年ぶりの来訪だった。


「戴冠と、ご成婚」


 彼は深く一礼する。


「二重のお祝い。我が国も、心よりお慶び申し上げます」


 完璧な礼だった。


 完璧すぎる、礼だった。


「ありがとうございます」


 私は型どおりに返す。


 この男の本題は、祝辞のあとに来る。


 いつも、そうだ。


「時に」


 来た。


「両国の交易について、少々」


 彼は書類を取り出した。


「我が国の港湾で、検査体制の見直しがありましてな」


「安全保障上の措置です」


 また、その言葉。


「通関には、これまでの倍のお時間をいただくことになります」


「保険の料率も、改定されます」


 倍の時間。


 改定という名の、引き上げ。


 狙いは、分かっている。


 北方ルートは、まだ細い。


 この国の交易の多くは、まだルーデンの海を通る。


 そこを、締める。


 戴冠と婚儀で、金の出ていくこの時期に。


「……おめでとうございます、の直後に」


 私は静かに言った。


「その書類ですか」


「偶然です」


 アルトマンは微笑んだ。


「時期が重なりましたことは、誠に遺憾に存じます」


 遺憾。


 便利な言葉だ。


「大使」


 私は書類を受け取り、目を通した。


「この措置は、記録に残します」


「どうぞ」


「日付と、内容と、貴国の説明を。そのままの形で」


「……ほう」


「我が国は、記録の国ですので」


 アルトマンの目が、わずかに細くなった。


「それが貴国の返答ですかな」


「いいえ」


 私は書類を閉じた。


「返答は、市場でいたします」


 三日後。


 私は王都の市場を歩いた。


 お忍びではない。


 記録を、取りに行った。


 薬種屋の店先。


 値札が、書き換えられていた。


 塗り消した跡の上に、新しい数字。


 一割、高い。


「また上がるのかい」


 客の老婆が、店主に聞いている。


「船が遅れてるんだと」


 店主は答えた。


「海の向こうの、検査とやらでね」


 老婆は財布の中を見て、薬を一包だけ買った。


 二包、必要そうだった。


 私は、その背中を覚えた。


 数字は、執務室に届く。


 だが、財布の中身は届かない。


 だから、見に来る。


 それだけのことを覚えるのに――


 私は一度、三つの都市を壊しかけた。


 二度は、ない。


 王宮に戻り、その日のうちに会議を開いた。


「北方ルートの増強を、前倒しします」


「南方港の第二埠頭も」


 財務の数字が並ぶ。


 厳しい数字だ。


 戴冠。婚儀。そして、この増強。


 出ていく金ばかりが並んでいく。


「もう一つ、ご報告が」


 財務官が、言いにくそうに続けた。


「例の、緩衝措置ですが」


「来月で」


「三年の期限を、迎えます」


 部屋の空気が、少し重くなった。


 三年前の、約束。


 期限が来たら、終わる制度。


 よりによって、この時期に。


 私は目を閉じて、開いた。


「予定どおり、議題に載せます」


 約束の期限は、延ばさない。


 だが。


 約束を「どう終えるか」は、まだ決めていい。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!

次話、三年前の約束の期限。イザベラが帰ってきます。

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