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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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エピローグ③ 変わったもの

 書類の山は、今日も減らない。


 机の上に積まれた紙を一枚ずつ処理していく。


 署名。


 確認。


 差し戻し。


 いつも通りの仕事。


 変わらない日常。


 だが――


「……変わりましたね」


 思わず、口に出た。


 誰もいない執務室。


 だからこそ、自然に出た言葉だった。


 扉の向こうから、足音が聞こえる。


 一定のリズム。


 迷いのない歩き方。


 私は顔を上げる。


 扉が開く。


「お疲れ様です」


 彼女が入ってくる。


 変わらない表情。


 だが。


 確実に、違う。


「お疲れ様です」


 私は立ち上がる。


 簡単なやり取り。


 それだけでいい。


「進捗はどうですか」


「順調です」


 書類を差し出す。


 彼女はそれを受け取り、目を通す。


 早い。


 無駄がない。


 そして。


 止まる。


「……ここは」


 指を置く。


「このままだと、現場で詰まります」


 以前なら、こうは言わなかった。


 数字だけを見ていた。


 理屈だけで判断していた。


 だが今は違う。


「例外規定を追加してください」


「地域ごとの判断で対応できるように」


「はい」


 私はすぐに書き直す。


 迷いはない。


 彼女の判断は、もう間違えない。


 そう分かっている。


 それが、一番の変化だった。


「……どうしました」


 彼女が顔を上げる。


 私は少しだけ考え、


 そして答えた。


「いえ」


「少し、思い出していました」


「何をですか」


「最初の頃を」


 彼女は一瞬だけ考え、


 そして小さく笑った。


「……あまり思い出したくないですね」


「同感です」


 私もわずかに笑う。


 あの頃は。


 すべてが違っていた。


 彼女は正しかった。


 だが。


 それだけだった。


 だから、崩れた。


「今は」


 私は言う。


「違いますね」


「そうですね」


 短い返答。


 だが、それで十分だった。


 彼女は書類に目を戻す。


 ペンを走らせる。


 判断が早い。


 そして。


 止まらない。


 それが今の彼女だ。


 正しさだけではない。


 迷いも含めて、進んでいる。


 その時。


 窓の外から声が聞こえる。


 人の声。


 市場の音。


 生活の音。


 彼女もそれに気づく。


 少しだけ視線を向ける。


「……いいですね」


 小さく呟く。


「ええ」


 私は答える。


「戻りました」


 完全ではない。


 だが。


 止まっていない。


 それでいい。


「……怖くはないですか」


 私はふと問う。


 以前にもした質問。


 だが、意味は違う。


 彼女は少しだけ考え、


 そして答えた。


「あります」


 迷いなく。


「だから」


 続ける。


「見ます」


「何をですか」


「人を」


 短い言葉。


 だが、それがすべてだった。


 制度ではなく。


 理屈でもなく。


 人。


 それが基準。


 それが――


 彼女の答え。


「……そうですか」


 私は頷く。


 それでいい。


 それで、十分だ。


 彼女は再び書類に向き合う。


 ペンが動く。


 国家が動く。


 その中心に、彼女がいる。


 だが。


 それは特別なことではない。


 ただ。


 選び続けているだけだ。


 それが、政治だ。


 私は静かに息を吐く。


 そして思う。


 あの時。


 あの選択は。


 間違っていなかった。


 彼女は変わった。


 そして。


 国家も変わった。


 それでいい。


 それが、答えだ。


 私は再び書類に目を落とす。


 仕事は終わらない。


 だが。


 もう迷いはない。


 この国は、続く。


 この形で。


 このまま。


 そして。


 彼女がいる限り。

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