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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第85話 国家というもの

 青い空は、どこまでも変わらなかった。


 あの日と同じように。


 それでも――


 すべてが違っていた。


 王宮の窓から見える王都は、静かに動いている。


 騒がしくもなく、止まってもいない。


 ただ、当たり前のように続いている。


 人が歩き、声が交わされ、生活が流れている。


 私はその光景を、しばらく黙って見ていた。


 何も起きていない。


 それが、どれほど難しいことか。


 もう知っている。


「……いい景色ですね」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 カイルだ。


 変わらない表情。


 だが、その目は少し柔らかい。


「ええ」


 私は答える。


「ようやく、ですね」


「はい」


 短い会話。


 それで十分だった。


 しばらく、二人で外を見ていた。


 言葉はない。


 必要もない。


 その静けさが、何よりも価値のあるものだった。


「……忙しくなりますね」


 カイルが言う。


 私は小さく笑った。


「もう十分忙しいです」


「確かに」


 彼もわずかに笑う。


 そして。


「それでも」


 続ける。


「これからの方が、長い」


 私は頷く。


「はい」


 それが現実。


 戦いは終わった。


 だが。


 続くものは、もっと長い。


 制度。


 運用。


 判断。


 すべてが、これから積み重なる。


「……怖くはないですか」


 不意に問われる。


 私は少し考えた。


 そして。


「あります」


 正直に答える。


 カイルは驚かない。


 ただ聞いている。


「正しいと思っても」


「間違えることはある」


「選んだ結果が」


「誰かを傷つけることもある」


 それが、政治だ。


 それが、国家だ。


「それでも」


 私は言う。


「やります」


 それしかない。


 それが選んだ道だから。


 カイルは静かに頷いた。


 それで十分だった。


 その時。


 扉が叩かれる。


「入ってください」


 侍従が入ってくる。


「殿下がお呼びです」


 私は頷く。


「分かりました」


 歩き出す。


 廊下を進む。


 何度も通った道。


 だが、今日は少し違う。


 終わりではない。


 始まりでもない。


 その間。


 続いている時間。


 執務室の前に立つ。


 扉を開ける。


 ルシアン殿下がいた。


 書類に目を通している。


 顔を上げる。


「来たか」


「はい」


 私は一礼する。


「座れ」


 言われるままに座る。


 少しの沈黙。


 そして。


「……決めた」


 殿下が言う。


 私は顔を上げる。


「何をですか」


「お前の立場だ」


 静かな声。


 だが重い。


「これまで」


 殿下は続ける。


「お前は“補佐”だった」


「だが」


 視線をまっすぐ向ける。


「これからは違う」


 空気が変わる。


「正式に」


 一瞬、間を置く。


「王妃として、国家運営に関わってもらう」


 言葉が、ゆっくりと落ちる。


 私は、すぐには答えられなかった。


 ただ、その意味を理解する。


 責任。


 立場。


 すべてが変わる。


「……いいのですか」


 ようやく出た言葉。


 殿下は迷わない。


「お前以外にいない」


 それだけだった。


 だが、十分だった。


 私はゆっくりと立ち上がる。


 そして。


 深く一礼する。


「お受けします」


 言葉は短い。


 だが。


 すべてを込めた。


 殿下は頷く。


「頼む」


 それで決まった。


 私は振り返る。


 扉へ向かう。


 そして。


 少しだけ立ち止まる。


 振り返らない。


 ただ、言う。


「……一つだけ」


「何だ」


「国家は」


 私は言葉を選ぶ。


 そして。


「人のためにあるものです」


 あの夜。


 答えた言葉。


 そのまま。


 殿下は少しだけ笑った。


「分かっている」


 それでいい。


 私は歩き出す。


 扉を開ける。


 外へ出る。


 光が差し込む。


 まぶしい。


 だが、目を逸らさない。


 前を見る。


 王宮の廊下。


 その先に続くもの。


 終わりのない仕事。


 終わりのない選択。


 それでも。


 私は歩く。


 一歩ずつ。


 確実に。


 国家は続く。


 人がいる限り。


 制度があっても。


 なくても。


 人が生きる限り。


 それが国家だ。


 そして。


 私は、その中にいる。


 それだけで――


 十分だった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


この物語は「制度と人」「政治とは何か」を軸に描いてきました。

そして最後に辿り着いた答えは、とてもシンプルなものでした。


国家とは、人のためにある。


もしこの物語が少しでも心に残ったなら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


あと数話エピローグを挟みます。最後までお付き合いください。

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