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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第84話 新しい王国

 朝の光が、王都を照らしていた。


 あの日と同じようでいて、どこか違う光。


 空気は軽い。


 人の声が自然に流れている。


 市場は動き、荷車は行き交い、笑い声すら混じっている。


 私はゆっくりと歩いていた。


 護衛もつけずに。


 ただ、一人で。


 石畳の感触が、足の裏に伝わる。


 現実だ。


 ここにあるのは、確かに“続いている生活”。


 それを見て、私は小さく息を吐いた。


「……戻りましたね」


 完全ではない。


 だが、止まっていない。


 それでいい。


 ふと、足を止める。


 パン屋の前。


 焼き立ての香り。


 並ぶ人々。


 順番を待つ子供。


 母親の手を握っている。


 私はその光景を、しばらく見ていた。


 それだけで、十分だった。


 王宮へ戻る。


 門をくぐると、空気が変わる。


 緊張ではない。


 整っている空気。


 秩序。


 流れ。


 それが、自然に動いている。


「おはようございます」


 声をかけられる。


 侍従だ。


「おはようございます」


 私は答える。


 それだけのやり取り。


 だが、その一つ一つが“安定”だった。


 執務室に入る。


 机の上には、すでに書類が積まれている。


 制度改正の最終案。


 承認待ち。


 私は一つ一つ目を通す。


 以前とは違う。


 ただ読むのではない。


 “人の顔”が浮かぶ。


 フェルドの子供。


 ベルナの男。


 ルグナの商人。


 それが、基準になっている。


「……これでいきましょう」


 ペンを取る。


 署名する。


 それで制度は動く。


 だが。


 それだけでは足りない。


「運用は、現場に任せます」


 侍従に伝える。


「例外規定も含めて」


「はい」


 短い返答。


 理解している。


 もう、同じ失敗は繰り返さない。


 その時、扉が開く。


 ルシアン殿下だ。


「進んでいるか」


「はい」


 私は立ち上がる。


「最終案です」


 書類を差し出す。


 殿下は目を通す。


 無言。


 そして。


「……変わったな」


 ぽつりと呟く。


 私は少しだけ笑った。


「はい」


 否定しない。


 変わった。


 確実に。


「以前なら」


 殿下が言う。


「もっと効率を優先しただろう」


「そうですね」


 私は頷く。


「ですが」


 視線を合わせる。


「それだけでは足りませんでした」


 沈黙。


 だが、理解は共有されている。


「……いい」


 殿下は頷いた。


「これで進めろ」


「はい」


 短く答える。


 それでいい。


 すべてが動く。


 国家が、前に進む。


 その日の午後。


 王宮の中庭。


 私は一人で座っていた。


 静かだ。


 風が通る。


 鳥の声がする。


 何も起きていない。


 それが、何よりも大きな変化だった。


 争いも。


 混乱も。


 ない。


 ただ、日常がある。


「……これが」


 小さく呟く。


「目指していたものですね」


 完璧ではない。


 だが。


 十分だ。


 その時。


「お姉ちゃん!」


 声がした。


 振り向く。


 あの子だ。


 フェルドの。


 走ってくる。


 元気な足取り。


「また来たの?」


 私は笑う。


「うん!」


 元気な返事。


 母親も後ろから来る。


「ご迷惑では……」


「いいえ」


 私は首を振る。


「むしろ嬉しいです」


 子供が言う。


「今日はね、いっぱい食べた!」


「そうですか」


 本当に。


 それだけでいい。


 母親が言う。


「街も、ほとんど戻りました」


「まだ完全ではありませんが」


「それでも」


 私は頷く。


「続いていますね」


「はい」


 それでいい。


 完璧ではなくても。


 続いていれば。


 国家は成立する。


 二人が去る。


 私はその背中を見送る。


 そして、空を見上げる。


 青い。


 どこまでも。


 終わった。


 そして。


 始まった。


 私は立ち上がる。


 歩き出す。


 この場所で。


 この国家で。


 私は続ける。


 制度を作り。


 人を守り。


 そして。


 選び続ける。


 それが――


 私の選んだ道だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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