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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第82話 逃げ場の先

 「……逃亡しました」


 その一言の余韻が、まだ消えていなかった。


 だが、足は止まらない。


 私はすでに歩き出していた。


 王宮の廊下を抜ける。


 夜は深い。


 だが中は明るい。


 人が動いている。


 情報が流れている。


 すべてが一つの方向へ向いている。


「移送経路は」


 私は歩きながら問う。


「西門から外へ」


 カイルが答える。


「途中で襲撃」


「護衛は」


「二名重傷、一名死亡」


 短い報告。


 だが、十分だった。


 計画的だ。


 内部と外部が繋がっている。


「追跡は」


「すでに出ています」


 私は頷く。


 だが、それでは足りない。


「私も行きます」


 カイルが一瞬止まる。


「危険です」


「分かっています」


 即答。


「ですが」


 視線を向ける。


「ここで終わらせます」


 沈黙。


 そして。


「……了解」


 カイルは頷いた。


 もう止めない。


 分かっているからだ。


 これは――


 最後の戦いだと。


 夜の王都を出る。


 風が冷たい。


 馬に乗る。


 速度を上げる。


 街の灯りが遠ざかる。


 闇が広がる。


 その中を、一直線に進む。


「方向は」


「北西です」


 カイルが指す。


「旧街道へ向かっています」


 旧街道。


 人が少ない。


 逃げるには最適。


 だが。


「追い詰められる場所でもあります」


 私は言った。


 一本道。


 分岐が少ない。


 逃げ場は限られる。


 なら――


 捕まえる。


 しばらく進むと、前方に灯りが見えた。


「……いた」


 カイルが低く言う。


 馬車。


 そして数人の影。


 護衛だ。


 だが数は多くない。


 急ぎすぎたか。


 あるいは――


 囮か。


「止まれ!」


 カイルが叫ぶ。


 反応は早い。


 敵が動く。


 剣が抜かれる。


 戦闘。


 短い。


 だが激しい。


 こちらも応戦する。


 私は下がらない。


 視線は一つ。


 馬車。


 その中に――


 いる。


 戦いはすぐに終わった。


 数で勝る。


 だが、それ以上に。


 覚悟が違う。


 護衛が倒れる。


 道が開く。


 私は馬車へ向かう。


 扉を開ける。


 中は暗い。


 だが。


 そこにいた。


 エルドラン。


 座っている。


 逃げていない。


 ただ、待っていた。


「……来ましたか」


 静かな声。


 私は答える。


「終わらせに来ました」


 彼は小さく笑う。


「そうでしょうね」


 その目は、もう逃げていない。


 理解している。


 ここで終わると。


「なぜ逃げた」


 私は問う。


 彼は少し考え。


 そして言った。


「試したかった」


「何を」


「あなたを」


 沈黙。


「国家を変えると言った」


「なら」


 その目が鋭くなる。


「どこまでやるか」


 挑発ではない。


 確認だ。


 私は答える。


「最後までやります」


「逃がしません」


 短く。


 はっきりと。


 彼は頷いた。


「……なるほど」


 そして立ち上がる。


 抵抗はしない。


 逃げもしない。


「では」


 ゆっくりと手を差し出す。


「連れていきなさい」


 終わりだ。


 完全に。


 私はその手を見て、


 そして。


 言った。


「いいえ」


 空気が止まる。


「ここで終わらせます」


 エルドランの目がわずかに動く。


「どういう意味ですか」


 私は答える。


「あなたは」


「逃げた」


「それは」


 一歩踏み込む。


「国家から逃げたということです」


 沈黙。


 そして。


「だから」


 視線を合わせる。


「ここで決めます」


 裁判ではない。


 制度でもない。


 政治として。


「……なるほど」


 エルドランは、ゆっくりと笑った。


 納得している。


 完全に。


「では」


 彼は言う。


「最後の問いだ」


 空気が張り詰める。


「国家とは何だ」


 静かな問い。


 だが重い。


 すべてを含む問い。


 私は一瞬だけ目を閉じる。


 そして。


 開く。


 答えは、もう決まっている。


「人です」


 短く。


 はっきりと。


「制度ではない」


「権力でもない」


「人が生きるためのもの」


 それが国家。


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがて。


 エルドランは小さく息を吐いた。


「……敗けだ」


 その一言で、すべてが終わった。


 彼は崩れない。


 ただ。


 受け入れた。


 私は振り返る。


「拘束を」


 護衛が動く。


 もう抵抗はない。


 完全な終わり。


 夜は静かだ。


 風が吹く。


 何もかもが終わった後のように。


 私は空を見上げる。


 暗い。


 だが。


 遠くに、わずかな光。


 夜明けが近い。


 私は歩き出す。


 これで終わりだ。


 すべてが。


 そして――


 ここから始まる。


 本当の意味での国家が。

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