第81話 残されたもの
扉が閉まった音が、やけに大きく響いた。
エルドランの姿が消えた大広間。
そこには、まだ誰も動けずにいた。
終わった。
確かに、一つの決着はついた。
だが――
その余韻は、重かった。
私はその場に立ったまま、しばらく動かなかった。
胸の奥に残るものがある。
達成感ではない。
勝利でもない。
もっと曖昧で、重いもの。
「……これでよかったのか」
誰かが小さく呟いた。
その言葉は、誰に向けたものでもない。
だが、確かに広がる。
広間の空気に。
人の中に。
疑問として。
私はゆっくりと振り返る。
「よくはありません」
静かに言った。
視線が集まる。
逃げない。
「都市は壊れかけました」
「人は苦しみました」
「制度も、穴を見せました」
事実だけを並べる。
それが今の現実。
「ですが」
一歩、前に出る。
「止めました」
短く。
それだけでいい。
完全ではない。
だが、崩壊は防いだ。
それが今回の結果。
沈黙。
誰も反論しない。
できない。
だからこそ――
次が必要だ。
「ここからです」
私は言う。
「問題は、終わっていません」
むしろ。
「これからが本番です」
ざわめき。
ようやく、人が動き出す。
止まっていた思考が、再び回り始める。
その時。
「……どうする」
老貴族が問う。
短く。
だが本質的な問い。
私は答える。
「制度を見直します」
「同じことが起きないように」
それは当然だ。
だが、それだけでは足りない。
「そして」
少しだけ間を置く。
「現場の判断権を増やします」
空気が変わる。
それは大きな変更だ。
「中央だけでは対応できない」
「今回で分かりました」
私の失敗。
その結果。
すべて繋がっている。
「だから」
視線を巡らせる。
「現場に任せる部分を増やします」
「ただし」
続ける。
「責任も伴います」
沈黙。
重い提案。
だが――
必要な変化。
その時。
「……なるほど」
低い声。
ドミニク侯爵だ。
いつの間にか、そこに立っていた。
「中央集権の緩和」
「だが統制は維持」
彼は言う。
「難しい舵取りだ」
私は頷く。
「はい」
「ですが」
「やらなければ、また崩れます」
侯爵はしばらく私を見ていた。
そして。
「……いい」
小さく頷いた。
「支持する」
その一言で、空気が変わる。
反対は出ない。
いや、出せない。
ここまで来た今、止める理由がない。
ルシアン殿下が言う。
「では進めろ」
「はい」
私は一礼する。
これで決まった。
国家は、次に進む。
その日の夜。
私は一人、執務室にいた。
静かだ。
昼の喧騒が嘘のように。
机の上には、新しい紙。
制度案。
修正案。
すべて、これから形になる。
「……ようやく」
小さく呟く。
ここまで来た。
長かった。
だが。
まだ終わっていない。
むしろ。
ここからが始まり。
その時。
扉が叩かれる。
「入ってください」
カイルが入ってきた。
「……お疲れ様です」
「ありがとうございます」
短いやり取り。
だが、十分だった。
「一つ報告があります」
私は顔を上げる。
「何でしょう」
「エルドランですが」
一瞬、言葉を止める。
嫌な予感がする。
「……逃亡しました」
時間が止まる。
「いつ」
「移送中です」
短い。
だが、致命的な報告。
私はゆっくりと立ち上がる。
胸の奥が冷える。
「……なるほど」
小さく呟く。
終わっていなかった。
やはり。
簡単には終わらない。
私は窓の外を見る。
夜の王都。
静かだ。
だが、その裏で。
何かが動いている。
「……追います」
私は言う。
迷いはない。
ここで終わらせる。
今度こそ。
完全に。
そして私は歩き出す。
戦いは終わっていない。
次は――
本当の意味での、最後だ。
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