第80話 責任の形
「その責任を、どう取らせるのか」
エルドランの言葉が、静かに広間へ落ちた。
空気が張り詰める。
誰もが分かっている。
ここが最後の分岐点だと。
国家はすでに選んだ。
だが。
選んだだけでは、終わらない。
その“結果”をどう処理するか。
それが――
政治だ。
私は一歩前に出た。
「責任は、二つです」
視線が集まる。
逃げ場はない。
「一つは」
「国家に対する責任」
静かに言う。
「制度を利用し」
「国家機能を歪めた」
「その結果」
「三都市が崩壊しかけた」
事実だけを並べる。
感情は入れない。
必要ない。
「もう一つは」
わずかに言葉を強くする。
「民に対する責任です」
空気が揺れる。
「生活を壊し」
「不安を煽り」
「暴動を誘発した」
広間の端で、誰かが息を呑む。
それでいい。
これは抽象ではない。
現実だ。
「以上を踏まえ」
私は言う。
「処分を提案します」
沈黙。
誰も口を挟まない。
全員が待っている。
「まず」
「全権の剥奪」
ざわめき。
だが予想の範囲内。
「財務関係、顧問職、すべて」
「即時停止」
エルドランは動かない。
ただ聞いている。
「次に」
「関係資産の凍結」
「資金の流れを完全に止める」
逃げ道を潰す。
「そして」
一瞬、間を置く。
「公的追放」
空気が凍る。
それは――
事実上の政治的死。
だが。
それでも。
私は続けた。
「ただし」
視線を上げる。
「刑罰は課しません」
ざわめきが大きくなる。
予想外。
当然だ。
私は言う。
「違法ではない」
「ならば」
「法では裁かない」
ここが分岐。
「これは」
静かに言う。
「政治の問題です」
だから。
「政治として処理します」
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
「……甘いな」
誰かが言った。
貴族の一人。
「ここまでやって、刑罰なしだと?」
私は答える。
「はい」
はっきりと。
「これは見せしめではありません」
「国家の判断です」
処罰ではない。
排除。
それが今回の答え。
「……なるほど」
別の声。
老貴族。
「制度を守るために」
「制度で裁かない、か」
理解している。
その通りだ。
「異論はありますか」
ルシアン殿下が言う。
沈黙。
誰も手を上げない。
完全ではない。
だが――
納得はしている。
「……決まりだな」
殿下が言う。
「エルドラン」
名を呼ぶ。
「上記処分を適用する」
終わり。
そう思った瞬間。
「……面白い」
エルドランが笑った。
その声は、まだ死んでいない。
視線が集まる。
「確かに」
彼は言う。
「私は排除される」
「だが」
一歩前に出る。
「それで何が変わる?」
沈黙。
「制度は残る」
「穴も残る」
「同じことは、また起きる」
その言葉は鋭い。
そして。
正しい。
私は答える。
「はい」
即答。
「起きます」
ざわめき。
だが私は続ける。
「だから」
視線を外さない。
「変えます」
制度を。
構造を。
「今回の件で分かりました」
「制度は、万能ではない」
「だから」
「人が支える必要がある」
静かに。
だが確実に。
「それが」
「これからの国家です」
沈黙。
そして。
エルドランは、初めて目を細めた。
「……なるほど」
小さく呟く。
その声は。
どこか納得していた。
「では」
彼は言う。
「見せてもらおう」
それだけだった。
抵抗しない。
否定しない。
ただ。
受け入れる。
そして。
試す。
それが最後の態度だった。
衛兵が近づく。
彼は抵抗しない。
そのまま歩き出す。
広間の中央を。
静かに。
その背中は――
敗者ではなかった。
思想を持った者の、終わり方だった。
扉が閉まる。
静寂。
そして。
誰かが息を吐いた。
終わった。
一つの戦いが。
だが。
私は分かっている。
これは終わりではない。
始まりだ。
私はゆっくりと振り返る。
広間を見渡す。
そして言った。
「これから」
静かに。
「制度を改めます」
空気が変わる。
次の戦いへ。
国家は、前に進む。
そのために。
私は歩き出す。
ここからが。
本当の意味での――
始まりだ。
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