第76話 追跡の先
「ベルナに資金が流れた」
その一言で、世界の見え方が変わった。
燃えかけた街。
止めたはずの暴動。
だが、その裏で――
誰かが意図的に動かしている。
「経路は」
私は即座に問う。
護衛が紙を差し出す。
「この商会を経由しています」
名前を見る。
見覚えがあった。
いや、正確には――
「……ルグナと同じですね」
「はい」
短い答え。
繋がった。
ルグナ。
フェルド。
そしてベルナ。
すべて同じ線上にある。
偶然ではない。
設計された動き。
「追えますか」
「現在追跡中です」
私は頷く。
「続けてください」
ここで逃せば終わる。
今、この瞬間が最も近い。
その時、背後から声。
「……で、どうする」
振り返る。
あの男だ。
最初に声をかけてきた、腕を組んだ男。
まだ警戒している。
だが完全には敵ではない。
「追います」
私は言う。
「この資金の流れを」
「それで何が変わる」
鋭い問い。
私は答える。
「全部です」
短く。
「この暴動も」
「この混乱も」
「誰が動かしているかが分かる」
男は黙る。
理解している。
だが納得していない。
「……それで終わるのか」
私は首を振る。
「終わりません」
「ですが」
視線を外さない。
「始まります」
沈黙。
やがて男は息を吐く。
「……勝手にしろ」
だがその言葉は、拒絶ではなかった。
許容。
それで十分だ。
私は護衛に向き直る。
「案内を」
「こちらです」
夜の街を進む。
まだ煙が残っている。
人々は遠巻きに見ている。
だが誰も止めない。
もう暴動ではない。
今は――
“待っている”。
結果を。
やがて一軒の建物の前で止まる。
「ここです」
小さな商会。
だが扉は閉じられている。
灯りもない。
「……遅いか」
私は呟く。
だが。
「開けます」
護衛が動く。
扉が破られる。
中へ。
暗い。
静かだ。
だが――
何かが残っている。
「書類だ」
カイルではない。
だが訓練された護衛がすぐに見つける。
机の下。
隠されていた。
私は受け取る。
目を通す。
そして。
「……これは」
息が止まる。
明確だった。
資金指示書。
日付。
金額。
経路。
そして――
署名。
エルドラン。
完全に。
繋がった。
「……来ましたね」
小さく呟く。
これで終わる。
いや――
終わらせられる。
その時。
背後で音がした。
振り返る。
人影。
逃げようとしている。
「止めて!」
護衛が動く。
押さえ込む。
若い男。
震えている。
「……商会の者か」
「ち、違う……」
否定。
だが目が泳いでいる。
「誰の指示ですか」
私は問う。
男は黙る。
そして。
「……知らない」
弱い声。
だが。
その時。
私は気づいた。
机の上。
まだ新しいインク。
つまり――
ついさっきまで、ここにいた。
もう一人。
もっと重要な人物が。
「……逃げましたね」
静かに言う。
護衛が頷く。
「はい」
「数分前です」
間に合わなかった。
だが。
証拠はある。
そして。
“繋がり”も。
私は紙を握る。
「戻ります」
短く言う。
もう迷わない。
これは終わりではない。
むしろ――
ここからが決着だ。
外に出る。
空気が冷たい。
だが頭は熱い。
男がこちらを見る。
「……どうだった」
私は答える。
「終わらせます」
それだけで十分だった。
彼は何も言わなかった。
だが視線は変わっていた。
疑いから――
期待へ。
私は歩き出す。
証拠は揃った。
だが。
相手も動く。
逃げるか。
攻めるか。
どちらにしても――
次が最後だ。
そして私は理解していた。
この戦いは、
ただの暴露では終わらない。
国家の形を決める戦いになる。
だからこそ。
絶対に。
ここで終わらせる。
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