第74話 繋がらない線
「証明します」
そう言い切った瞬間の静寂が、まだ耳に残っていた。
王宮の廊下を歩く。
足音だけがやけに響く。
あの場では押し切った。
だが――
現実は変わっていない。
「……時間がありません」
カイルの声は低い。
私は頷く。
分かっている。
証拠はある。
だが“繋がっていない”。
それが致命的だった。
資金。
契約。
構造。
すべて見えている。
だが――
暗殺と繋がらない。
それがすべてを止めている。
執務室に入ると、すぐに資料を広げた。
机の上が埋まる。
線を引く。
矢印を繋ぐ。
だが。
「……足りない」
何度見ても同じ結論にしかならない。
カイルが言う。
「資金の流れは確定しています」
「ですが」
「暗殺との直接の関係は――」
「ない」
私が言った。
それが問題。
エルドランは“制度の中で戦っている”。
違法ではない。
だが結果として国家を揺らしている。
「……どうする」
ルシアン殿下の声。
いつの間にか入ってきていた。
私は振り返る。
「二つあります」
短く答える。
「一つは」
「証拠を見つける」
「もう一つは」
一瞬、言葉を止める。
「証拠を作る」
沈黙。
カイルが息を呑む。
殿下は動かない。
ただ見ている。
「作る、とは」
静かな問い。
私は答える。
「誘導します」
「相手に“動かせる”」
つまり。
次の行動を引き出す。
その中で、決定的な証拠を取る。
それが最短。
だが――
「危険だな」
殿下が言う。
「はい」
私は頷く。
「失敗すれば、証拠は消えます」
「成功しても」
続ける。
「こちらも責任を問われる可能性があります」
沈黙。
正攻法ではない。
だが時間がない。
そして相手は、それを理解している。
だからこそ“合法”で固めている。
「……やるしかないな」
殿下が言った。
短く。
だが重い。
私は頷く。
「はい」
その時。
扉が叩かれる。
「報告です!」
急ぎの声。
嫌な予感がする。
「入れ」
カイルが応じる。
入ってきた伝令の顔は青い。
「ベルナで暴動が発生しました!」
空気が止まる。
「規模は」
「拡大中です!」
「原因は」
伝令は言った。
「物資の遅延と――」
一瞬ためらう。
「噂です」
「噂?」
「“王宮が都市を選んで見捨てている”と」
沈黙。
それは事実に近い。
だからこそ――
強い。
カイルが低く言う。
「……連鎖が来ました」
私は目を閉じる。
フェルド。
ルグナ。
そしてベルナ。
繋がった。
悪い方向に。
「……動きます」
私は言った。
迷いはない。
もう選択の段階ではない。
「証拠を取りに行く」
「同時に」
視線を上げる。
「暴動も止める」
無茶だ。
だがやるしかない。
殿下が言う。
「人を割くぞ」
「必要です」
私は答える。
「どちらかを捨てれば、もう一方も崩れます」
沈黙。
だが否定はない。
「……いい」
殿下が頷く。
「任せる」
私は一礼する。
そして振り返る。
「カイル」
「はい」
「二手に分けます」
「私はベルナへ」
「お前は王宮に残り、資金経路を追え」
カイルが一瞬だけ迷う。
「護衛は」
「最小でいい」
時間がない。
動くことが優先。
「……了解」
彼は頷いた。
決断した顔だった。
その夜。
私は再び馬車に乗っていた。
窓の外は暗い。
だが、遠くに灯りが見える。
ベルナだ。
あの灯りが、消えかけている。
そして。
もう一つ。
頭の中に残る言葉。
「証明できますか?」
エルドランの声。
静かで。
確信に満ちた声。
私は小さく呟く。
「……証明します」
だが今回は。
見つけるだけでは足りない。
引きずり出す。
動かす。
その瞬間を、掴む。
それができなければ――
負ける。
馬車が揺れる。
速度が上がる。
時間はない。
すべてが同時に崩れ始めている。
そしてその中心に――
あの男がいる。
私は目を閉じる。
そして開く。
もう迷わない。
この戦いは、
証拠ではなく――
意志の戦いだ。
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