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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第73話 証拠という武器

 「では、見せてもらいましょう」


 エルドランのその一言で、大広間の空気は完全に変わった。


 ざわめきは消えた。


 誰もが息を潜め、ただ“次”を待っている。


 逃げ場はない。


 だが同時に――


 こちらにもまだ、決定打はない。


 私はゆっくりと一歩踏み出した。


「では、まず一つ」


 資料を一枚、卓上に置く。


 乾いた音が響く。


「三日前、ルグナ優先措置の直後」


「複数の商会に対し、同時に資金が流れています」


 視線が集まる。


 説明は最小限でいい。


 重要なのは“事実”だけ。


「その資金は即座に引き出され」


「別の経路に分散」


「そして」


 次の紙を重ねる。


「この口座へ収束しています」


 場の空気が一段、重くなる。


 エルドランは無言。


 だが、視線が一瞬だけ落ちた。


 それで十分だった。


「偶然ではありません」


 私は言う。


「同一の意図による操作です」


 沈黙。


 誰も口を挟まない。


 この段階で否定する者はいない。


 なぜなら――


 否定すれば、自分が巻き込まれる可能性があるからだ。


「……興味深い」


 エルドランがようやく口を開いた。


 だが声音は変わらない。


「ですが、それが私とどう関係するのですか」


 当然の反応。


 私は頷いた。


「関係します」


 短く言い切る。


「この口座の管理者は」


 一瞬、間を置く。


「あなたです」


 ざわめきが走る。


 完全な沈黙ではなくなった。


 波が立つ。


 だが――


 まだ足りない。


 これでは“疑い”だ。


 “確定”ではない。


「証拠は」


 エルドランの声は冷静だった。


 揺れていない。


 それどころか――


 わずかに余裕すらある。


 私は理解する。


 この男は、まだ切り札を持っている。


 だからこそ、ここで止める。


「あります」


 私は言った。


 そして振り返る。


「カイル」


「はい」


 彼が一歩前に出る。


 手にしているのは、小さな封書。


「押収資料です」


 机に置かれる。


 中身が広げられる。


 契約書。


 署名。


 印章。


 そして――


「……これは」


 誰かが呟く。


 エルドランの名。


 明確に刻まれている。


 その瞬間。


 空気が変わった。


 疑いから――


 確信へ。


 だが。


 それでも。


 エルドランは崩れなかった。


 ゆっくりと紙を見下ろし、


 そして――


 笑った。


「……甘い」


 低い声。


 だがはっきりと響く。


 私は目を細める。


「何がですか」


「それは」


 彼は言う。


「“正しい書類”です」


 沈黙。


 理解が一瞬遅れる。


「正しい?」


「ええ」


 彼は軽く肩をすくめる。


「私は確かに、その資金を動かしました」


 ざわめきが再び広がる。


 だが。


 彼は続ける。


「だがそれは合法です」


 空気が凍る。


「商会への融資」


「貴族間の資金調整」


「すべて契約に基づく」


 一つ一つ、淡々と並べる。


「違法性はありません」


 沈黙。


 私は理解した。


 これは――


 制度の中での反乱だ。


 違法ではない。


 だが明らかに意図がある。


「……暗殺は」


 私は言う。


 エルドランは首を傾げた。


「証明できますか?」


 その一言で、すべてが止まる。


 証明。


 それがない限り、繋がらない。


 資金と暗殺。


 構造は見えている。


 だが――


 繋ぐ線がない。


 私は息を吐いた。


 ここが分岐点だ。


 押すか。


 引くか。


 そして私は――


「証明します」


 前に出た。


 迷わない。


 ここで引けば終わる。


「時間をください」


「すべて繋げます」


 場がざわめく。


 これは賭けだ。


 証拠はまだ揃っていない。


 だが。


 揃える。


 そう宣言した。


 エルドランはゆっくり笑った。


「いいでしょう」


 そして一歩引く。


「楽しみにしています」


 その目は、完全に“対等”だった。


 もはや隠さない。


 敵だと。


 その瞬間、私は確信した。


 この戦いは――


 簡単には終わらない。


 大広間を出た後。


 カイルが低く言う。


「……厳しいですね」


「ええ」


 私は頷く。


「ですが」


 歩みを止めない。


「勝ちます」


 証拠を揃える。


 構造を繋ぐ。


 そして。


 すべてを暴く。


 それができなければ。


 この国家は、また壊れる。


 私は歩き続ける。


 戦いは、次の段階へ入った。


 そして今度は――


 絶対に、負けられない。

ここで一度、流れが逆転しました。


「証拠がある」→「合法で逃げられる」

この構造で、敵の強さが一段上がっています。


次は「どうやって決定的証拠を作るか」という知略戦になります。


面白いと感じていただけたら、ブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。


次話、逆転の布石です。

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