第72話 暴かれる構造
王宮の廊下は、やけに長く感じた。
足音が響く。
その一歩一歩が、何かを踏み越えているようだった。
見えなかった敵が、見えた。
だがそれは終わりではない。
むしろ――
ここからが本当の戦いだ。
「……急ぎます」
カイルの声は低い。
私も頷いた。
時間がない。
相手はすでに動いている。
こちらが動く前に、証拠を消し、関係を断ち、逃げ道を作る。
それが“内部の敵”だ。
だからこそ――
先に掴む。
そして、逃がさない。
執務室に戻ると、机の上にはすでに新しい資料が積まれていた。
「資金経路の追加分です」
宰務官が差し出す。
私は受け取り、目を走らせる。
商会。
貴族名義。
複数の経路。
そして――
「……収束していますね」
「はい」
カイルが答える。
「すべて、同じ口座に繋がっています」
私は紙の中央を指で押さえる。
名前はまだ出ていない。
だが構造は見えた。
点ではなく、線。
線ではなく、網。
そしてその中心に――
「一人」
私は呟く。
侯爵の言葉が脳裏をよぎる。
“中心は一人”
間違っていない。
これは偶然ではない。
意図された構造だ。
「この規模で資金を動かせる人物は限られます」
宰務官が言う。
「財務院出身」
「貴族顧問」
条件は揃っている。
私は静かに言った。
「名を出します」
カイルが一瞬息を呑む。
「まだ確証が――」
「構いません」
私は言い切る。
「確証は、これから揃えます」
先に動く。
それが今回の戦いだ。
「呼び出します」
その言葉に、空気が変わる。
「公開の場で」
逃げ場をなくす。
それが最も強い。
その時、扉が開いた。
ルシアン殿下だ。
「動くか」
「はい」
私は即答する。
「本日中に」
殿下は短く頷いた。
「いい」
「全て任せる」
その一言で十分だった。
私は振り返る。
「準備を」
命令が飛ぶ。
人が動く。
紙が走る。
王宮全体が、一つの方向へ向き始める。
その夕方。
招集状が送られた。
名指しで。
元財務院上級官。
現・貴族顧問。
――エルドラン。
夜。
王宮の大広間。
灯りがともる。
人が集まる。
貴族。
官僚。
商人。
すべての関係者。
ざわめきが広がる。
「何が始まる」
「緊急招集だと」
「名前が出たらしい」
その中心に、彼はいた。
エルドラン。
整った服装。
落ち着いた表情。
だが、その目は冷たい。
計算している目だ。
私はゆっくりと前に出る。
視線が集まる。
逃げ場はない。
ここが――勝負の場。
「本日は」
静かに口を開く。
「国家の安全に関わる案件について」
空気が張り詰める。
「説明を求めます」
エルドランがわずかに笑った。
「説明、ですか」
「何のことでしょう」
予想通りだ。
すぐには認めない。
だが。
「資金の流れ」
私は資料を掲げる。
「複数の商会、複数の貴族名義」
「そしてその収束先」
ざわめき。
エルドランの目がわずかに細くなる。
「興味深い話です」
だが表情は崩れない。
「しかし、それが何か問題でも?」
私は一歩踏み出す。
「暗殺未遂」
空気が凍る。
「その資金が、この経路と一致しています」
沈黙。
全員が息を止める。
エルドランは、初めて黙った。
だがすぐに言う。
「証拠は」
静かな声。
挑発。
私は答える。
「揃えます」
逃げない。
「ですが」
視線を外さない。
「逃げ場はありません」
その言葉に、空気が完全に変わる。
これは交渉ではない。
宣言だ。
戦いの。
エルドランは、ゆっくりと笑った。
「……なるほど」
その目が変わる。
冷たい。
そして――
楽しんでいる。
「面白い」
小さく呟く。
「では」
一歩前に出る。
「どこまでできるか、見せてもらいましょう」
挑戦だった。
完全な。
そしてその瞬間、私は確信した。
この男は逃げない。
戦う。
この場で。
この国家の中心で。
私は静かに息を吐く。
いい。
それでいい。
ならば。
「すべてを暴きます」
私は言った。
これはもう。
政治ではない。
国家の中枢を巡る戦いだ。
そして――
引き返すことは、もうできない。
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