第70話 王宮の影
王都へ戻る馬車の中。
私は窓の外を見ていた。
フェルドの灯りは、もう見えない。
だが、その光は確かに残っている。
人が生きている限り、政治は意味を持つ。
「……お疲れ様でした」
カイルが言う。
私は小さく首を振った。
「まだ終わっていません」
むしろこれからだ。
国家は広い。
問題は連鎖する。
だが――
私はもう迷わない。
その時。
馬車が止まった。
「どうした」
カイルが警戒する。
外で何かが起きている。
ざわめき。
低い声。
そして――
金属音。
私は一瞬で理解した。
「伏せて!」
叫ぶと同時に、
矢が馬車の壁を貫いた。
鈍い衝撃。
木が割れる音。
カイルが剣を抜く。
「襲撃です!」
外で剣戟の音が響く。
護衛が応戦している。
だが数が多い。
「外へ出ます」
私は言う。
「危険です!」
「中にいても同じです」
短く言い切る。
扉を開ける。
冷たい空気。
そして――
黒装束の男たち。
顔を隠し、無言で動く。
訓練されている。
ただの盗賊ではない。
「王宮関係者だな」
カイルが低く言う。
私は周囲を見る。
逃げ道はない。
狙いは明確。
私だ。
「……なるほど」
静かに呟く。
政治が動いた。
だから。
次は――
排除。
それが自然な流れ。
「下がってください」
カイルが前に出る。
剣が光る。
敵が迫る。
だがその時。
「そこまでだ」
低い声が響いた。
空気が変わる。
黒装束の動きが一瞬止まる。
次の瞬間。
別の部隊が現れた。
王宮近衛。
統率された動き。
一気に包囲する。
戦闘は一瞬で終わった。
敵は逃げる。
捕縛は数名。
静寂が戻る。
「……遅い」
カイルが吐き捨てる。
近衛隊長が一礼する。
「申し訳ありません」
私は首を振った。
「問題ありません」
それよりも。
「誰の指示ですか」
隊長は一瞬だけ迷い、答えた。
「……調査中です」
私は目を細めた。
分かっている。
これは外敵ではない。
内部だ。
王宮の中。
あるいは貴族。
あるいは――
「……始まりましたね」
私は静かに言う。
カイルが頷く。
「はい」
政治は次の段階へ進んだ。
制度。
外交。
経済。
そして今――
権力そのもの。
王宮へ戻った夜。
私はルシアン殿下の執務室にいた。
報告はすでに上がっている。
「狙われたな」
殿下が言う。
「ええ」
「誰だと思う」
私は少しだけ考えた。
だが答えは一つではない。
「複数です」
「反改革派」
「既得権益層」
「あるいは外部と結んだ者」
殿下は静かに頷く。
「そうだな」
そして言う。
「なら、どうする」
私は答える。
「潰します」
即答だった。
だが。
「ただし」
言葉を続ける。
「力ではなく」
「証拠で」
殿下が少しだけ笑う。
「らしいな」
私は頷く。
これは戦争ではない。
政治だ。
ならば。
「表に引きずり出します」
誰が敵か。
何をしているか。
すべて明らかにする。
それが最も強い。
殿下は立ち上がる。
「いいだろう」
「やれ」
短い言葉。
だがすべてを任されている。
私は一礼する。
「承知しました」
執務室を出る。
廊下は静かだ。
だが、その静けさの裏で、
何かが動いている。
見えない敵。
見えない意図。
だが――
もう恐れはない。
私は歩き出す。
これは新しい戦いだ。
制度ではない。
外交でもない。
権力そのもの。
その中心で。
私は戦う。
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