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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第68話 理屈を捨てた日

 夜が明ける前から、私は動いていた。


 仮設執務室の机には、これまでの資料が積まれている。


 流通表。


 価格推移。


 輸送計画。


 すべて正しい。


 すべて合理的。


 そして――


 すべて、失敗した。


 私はそれらを一枚ずつ見ていく。


 否定するためではない。


 理解するためだ。


「……足りなかった」


 何が。


 答えはもう分かっている。


 理屈だ。


 合理性だ。


 それは“遅い”。


 現実はもっと速く崩れる。


 その時、カイルが入ってくる。


「輸送部隊の準備が整いました」


 私は顔を上げる。


「どれくらい回せますか」


「全力で回せば、この都市は回復できます」


「ただし」


 言葉が続く。


「他の二都市が崩れます」


 やはりそうだ。


 均衡は崩れる。


 どこかを救えば、どこかが落ちる。


 それが現実。


 だが――


 私は迷わなかった。


「三都市すべてに回します」


 カイルが一瞬固まる。


「……それでは」


「全部が中途半端になります」


「ええ」


 私は頷く。


「その通りです」


 完全な回復はできない。


 だが。


「完全である必要はありません」


 私は言う。


「“生きていける”状態まで戻します」


 沈黙。


 それは理屈ではない。


 効率でもない。


 だが――


 人はそれで生きる。


「優先順位は」


 カイルが問う。


「生活に直結するもの」


「食料、燃料、薬」


「それ以外は後回しです」


 利益ではない。


 制度でもない。


 生存だ。


「……分かりました」


 カイルは頷いた。


 そしてすぐに動き出す。


 命令が飛ぶ。


 人が動く。


 輸送が走る。


 その日の昼。


 フェルドの広場。


 最初の荷車が到着した。


 小麦袋。


 干し肉。


 薬品箱。


 人々が集まる。


 だが昨日とは違う。


 ざわめきがある。


 動きがある。


「……本当に来た」


 誰かが呟く。


 配給が始まる。


 秩序は完全ではない。


 混乱もある。


 だが。


 確実に“動いている”。


 子供がパンを受け取る。


 そして一口かじる。


 その瞬間。


 すべてが報われた気がした。


「……よかった」


 私は小さく息を吐く。


 女性がこちらを見る。


 昨日の母親だ。


 何も言わない。


 ただ、深く頭を下げた。


 それだけで十分だった。


 その夜。


 私は再び机に向かっていた。


 だが、昨日とは違う。


 資料を見る目が変わっている。


「……これではダメですね」


 私は呟く。


 制度は必要だ。


 だがそれだけでは足りない。


 だから。


 私は新しい紙を取る。


 そして書き始める。


 ――緊急対応規則。


 条件。


 例外。


 優先順位。


 だが今回は違う。


 最初に書いたのは――


「“人命優先”」


 それが基準。


 すべての上に置く。


 効率より。


 制度より。


 国家より。


 人。


 それを守るための政治。


「……これが」


 ペンを止める。


「私の政治です」


 理屈は捨てない。


 だが縛られない。


 その両方を持つ。


 それが、今の私にできること。


 窓の外。


 フェルドの灯りが少し増えている。


 まだ弱い。


 だが消えていない。


 それでいい。


 完全ではない。


 だが――


 生きている。


 私は静かに立ち上がる。


 そして次の指示を出す。


 戦いは終わっていない。


 だが。


 ようやく、方向は見えた。


 これは制度の戦いではない。


 政治の戦いだ。


 そして私は今、


 ようやくその入り口に立ったのだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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