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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第66話 取り残された都市

 ルグナを発った翌日。


 私たちは次の都市へ向かっていた。


 名前は――フェルド。


 報告では「中継都市の一つ」。


 だがその実態は、


 ルグナよりも脆い場所だった。


 街の入口に入った瞬間、空気が違うと分かった。


 静かすぎる。


 人の気配が、薄い。


「……これは」


 カイルが言葉を失う。


 通りに人はいる。


 だが座り込んでいる者が多い。


 店は開いている。


 だが中は空だ。


 棚に物がない。


 いや、違う。


 “売れ残っているものしかない”。


 必要なものがない。


 食料。


 燃料。


 薬。


 それらが消えている。


 私は足を速める。


 中央広場へ。


 そこには、人が集まっていた。


 だが――ルグナとは違う。


 怒号はない。


 静かだった。


 ただ、疲れている。


「……遅かったか」


 誰かが呟く。


 その言葉に、胸が締めつけられる。


「王宮の方ですか」


 女性が声をかけてきた。


 やつれた顔。


 子供の手を握っている。


「はい」


 私は答える。


「状況を確認しに来ました」


 女性は少しだけ笑った。


 諦めたような笑みだった。


「確認、ですか」


 そして言う。


「もう終わっていますよ」


 私は言葉を失う。


「商会は全部止まりました」


「流通も止まりました」


「昨日から、パンがありません」


 子供が袖を引く。


「お母さん」


「お腹すいた」


 その声は、小さかった。


 だが、はっきりと届いた。


 私は目を逸らさなかった。


 逸らしてはいけない。


「……いつからですか」


 私は問う。


「三日前です」


 女性は答える。


「ルグナに物資が流れた日から」


 その言葉が、胸に刺さる。


 私は理解する。


 完全に。


 これは自然な崩壊ではない。


 選択の結果だ。


 私が決めた。


 ルグナを優先する、と。


 だからここは――


「切り捨てられた」


 誰かが言った。


 静かに。


 だが確かに。


 私は、否定できなかった。


 その通りだからだ。


 広場にいた人々が、ゆっくりとこちらを見る。


 怒りではない。


 もっと重いもの。


 諦め。


 失望。


 それが一番痛い。


「……説明してください」


 別の男が言う。


 声は静かだ。


「なぜこうなったのか」


 私は答える。


 逃げずに。


「……私の判断です」


 ざわめきすら起きない。


 ただ、聞いている。


「ルグナを優先しました」


「資源を集中しました」


「その結果」


 言葉が少しだけ詰まる。


 だが止めない。


「この都市が遅れました」


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがて、子供の声。


「お腹すいた」


 それだけだった。


 それがすべてだった。


 私は、初めて理解した。


 制度の失敗ではない。


 計算の誤りでもない。


 これは――


 判断ミスだ。


 私は、間違えた。


 ルグナを救った。


 だが同時に、


 この街を壊した。


 それが現実。


 カイルが小さく言う。


「……どうしますか」


 私はすぐに答えられなかった。


 頭では分かっている。


 今から資源を回せば、


 別の場所が崩れる。


 連鎖は止まらない。


 だが。


 それでも。


 私はゆっくりと顔を上げた。


「……ここを救います」


 カイルが息を呑む。


「ですがそれでは――」


「分かっています」


 私は言う。


「また別の場所が崩れます」


 それでも。


「それでも」


 言葉を強くする。


「見捨てることはできません」


 広場の人々がこちらを見る。


 まだ信じていない。


 当然だ。


 だが、構わない。


 これは信頼の話ではない。


 責任の話だ。


 私は一歩前に出る。


「本日中に」


「食料を手配します」


「明日から流通を再開します」


 誰かが小さく笑った。


「……また同じことを言うのか」


 私は頷く。


「はい」


 逃げない。


 間違えたからこそ。


 やり直すしかない。


 その夜。


 私は一人で座っていた。


 灯りは暗い。


 静かすぎる。


 手が震えているのに気づく。


「……初めてですね」


 小さく呟く。


 本当の意味で。


 自分の判断で、


 人を苦しめた。


 その事実が、重い。


 だが――


 逃げない。


 もう決めたから。


 私はゆっくりと立ち上がる。


 そして、地図を見る。


 国家は広い。


 全ては救えない。


 だが。


 一つずつなら。


「……やり直します」


 それが、


 政治家としての最初の一歩だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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