第43話 合法的な包囲網
グレイヴン視察の翌週。
王宮に、正式な請願書が提出された。
差出人は――
王国地方自治連盟。
中心にいるのは、ドミニク・ヴァルトハイム侯爵。
「内容は?」
殿下が静かに問う。
「制度改革の“再評価委員会”設置要求です」
私は、文書を広げる。
文面は穏やかだ。
攻撃的な言葉は一切ない。
だが、狙いは明確だった。
「改革の影響を客観的に検証するため、第三者委員会の設置を求める」
「その間、主要改革は一時停止すること」
止めろ、という意味だ。
「合法です」
マリエルが低く言う。
「王国法上、拒否はできません」
私は、ゆっくりと頷く。
侯爵は、賢い。
世論戦で揺らぎを作り、
地方の不安を拾い、
合法的な“減速装置”を作った。
止めるのではない。
遅らせる。
それが最も効果的だ。
「応じるか」
殿下の視線が向く。
ここで拒否すれば、
“独裁的”
“批判を恐れている”
と書き立てられる。
「応じます」
私は即答した。
殿下は一瞬驚いたように見えたが、すぐに理解する。
「委員会は?」
「こちらが半数を指名します」
「議事録は公開」
「期間は三か月」
侯爵の狙いは“停止”。
ならば、停止させない枠を作る。
「公開、か」
殿下が呟く。
「ええ」
「隠すものがないことを、見せます」
その日の午後。
ドミニク侯爵は再び執務室に現れた。
「迅速なご対応、感謝いたします」
柔らかな笑み。
「再評価委員会、設置を受け入れましょう」
私は、はっきりと言う。
「議事は公開」
「期限は三か月」
侯爵の眉が、わずかに動いた。
「ほう」
「透明性が重要なのでしょう?」
穏やかに返す。
侯爵は、一瞬だけ黙った。
その沈黙が、答えだった。
止めたかった。
だが、公開されれば、委員会は“政治的演劇”にはできない。
「……承知しました」
微笑は崩さない。
だが、目は冷たい。
「三か月で、結果を出しましょう」
侯爵が去った後、私は静かに息を吐いた。
「包囲されたな」
殿下の声。
「はい」
「ですが、壁は透明です」
委員会は、刃にも盾にもなる。
問題は――
委員の顔ぶれだ。
そして、その夜。
侯爵の屋敷。
「彼女は受けたか」
「はい。しかも公開で」
侯爵は、ゆっくりと頷く。
「賢い」
「だが」
紅茶を置く。
「公開とは、舞台だ」
「舞台には、観客がいる」
視線が、遠くを見つめる。
「次は、観客を動かす」
戦いは、次の段階へ入った。
制度を巡る戦いは、
ついに――
王宮全体を巻き込む舞台へと広がる。
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