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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第32話 静かな裁定

 裁定は、即座には下されなかった。


 それが、法務卿クラウス・ハイデマンのやり方だった。


「結論を急ぐ必要はありません」


 彼は、淡々と言った。


「記録は残りました。あとは、法に照らして整理するだけです」


 その言葉に、第一王子派の空気がわずかに緩む。


 まだ、決まっていない。

 そう思いたいのだろう。


 だが――


 私は、その空気が“誤解”であることを理解していた。


 これは猶予ではない。

 確認の時間だ。


 王位継承会議は、数日にわたって続いた。


 その間、法務卿は一切の感情を見せず、

 ただ淡々と資料を精査し、前例を照合し、文言を整えていく。


 第一王子アルノルト殿下は、何度か弁明を試みた。


「評価を正確に伝えようとしただけだ」


「意図的な操作ではない」


 どれも、感情としては理解できる。


 だが、法は感情を汲まない。


「結果として、比較対象が歪められています」


 クラウスの返答は、それだけだった。


 ある日の午後、ヴェルナー・シュタインが再び呼ばれた。


「あなたは、これらの修正が継承会議でどう扱われるか、理解していましたか」


 彼は、はっきりと頷いた。


「はい」


「それでも、実行した?」


「……止められませんでした」


 それ以上、言葉はなかった。


 その沈黙が、最後の確認だった。


 王は、ずっと黙っていた。


 誰よりも多くを聞き、

 誰よりも多くを理解しながら。


 そして、会議の終盤。


 法務卿が、静かに書類を閉じた。


「結論を申し上げます」


 声は、いつもと同じ。


「第一王子アルノルト殿下の管轄において行われた記録修正は」


「王位継承会議中という状況下において」


「評価に影響を与える意図を含む行為と認定します」


 誰も、声を上げなかった。


 反論も、怒号もない。


 ただ、重い沈黙。


「従って」


 クラウスは、王を見た。


「王国法に基づき、相応の措置が必要です」


 王は、ゆっくりと頷いた。


「分かった」


 その一言で、すべてが決まる。


 だが、王はすぐに宣言しなかった。


 視線を、第二王子殿下へ移す。


 次に、私へ。


 そして、第一王子殿下へ。


「……裁定は、次の会合で正式に下す」


 それは、形式だ。


 実質的な結論は、もう出ている。


 会議が散会した後、私は廊下を歩きながら思った。


 誰も叫ばなかった。

 誰も罵らなかった。


 それでも――


 この静けさこそが、

 最も逃げ場のない裁定なのだと。


 次は、宣言だ。


 覆らない、公式な言葉として。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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