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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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116/118

第116話 国婚

 三日後。


 同じ大聖堂に、今度は白い花が飾られた。


 国婚。


 王と、王妃の婚儀。


 支度の間で、マリエルが最後の仕上げをしていた。


「七種類の白から選んだ甲斐があったわね」


「どれを選んだのでしたか」


「あなたが一番書類に見えないって言った白よ」


「……覚えています」


 髪には、銀の髪飾り。


 祖母から、母たちを経て、私へ。


 ルヴェールの花嫁の、しるし。


「綺麗よ」


 マリエルが、鏡越しに言った。


「今日は書類の話、禁止だからね」


「善処します」


「その返事がもう書類なのよ」


 控えの間には、王太后さまが待っていた。


 彼女は私を上から下まで検めて、頷いた。


「合格」


「ありがとうございます」


「言ったわね。式で一番狙われるのは、花嫁だと」


「はい」


「今日のあなたは」


 彼女は、扉の外の気配に目をやった。


 大聖堂に集う、各国の使節たち。


「一番守られている花嫁よ」


「三つの旗が、あなたの式を守っている」


「あなたが、そういう式にしたの」


 誇りなさい、と彼女は言った。


 後見人の、最初で最後の甘い言葉だった。


 扉が、開く。


 光と、鐘の音。


 長い絨毯の先に、陛下が立っていた。


 列席の顔ぶれが、視界の端を流れていく。


 ナディル。


 アルトマン。


 二人の席は、同格に並べてある。


 半年かけて設計した、均衡の席次。


 この並びこそが、三国への通達だ。


 侯爵は、連盟の席で目を閉じていた。


 イザベラは、姿勢よく。


 カイルは、少し泣きそうな顔で。


 前から三列目に、母。


 その隣で、父が真っ直ぐ前を見ていた。


 絨毯の先に、着く。


 陛下が、手を差し出す。


 三年前、政務の卓越しに書類を受け渡した手だ。


 その手に、今日は手を重ねる。


 誓いの場で、司式が問うた。


「病める時も、健やかなる時も、この誓いを守りますか」


「誓う」


 陛下は答え、そして一言、足した。


「誓約は、履行する。期日どおりに」


 大聖堂に、小さな笑いが広がった。


 厳粛な式で、それは異例のことで。


 でも、誰も咎めなかった。


 この国の王と王妃の誓いとして、これ以上の言葉はなかったから。


「私も、誓います」


 私は答えた。


「履行状況は、毎年検めます。相互に」


 笑いが、もう一度。


 今度は、拍手も混ざった。


 そして、署名の卓へ。


 この国の婚姻は、最後に記録で結ばれる。


 婚姻記録簿。


 陛下が署名し、私が署名する。


 エリシア・フォン・ルヴェール。


 この名で書く、最後の署名。


 墨が、乾いていく。


 十年、書類に生きてきた。


 その私の人生で、一番美しい一枚だった。


 鐘が鳴る。


 王都中の鐘が。


 大聖堂を出ると、広場は人で埋まっていた。


 歓声の中に、聞き覚えのある声がした気がした。


 薬種屋の店先の、あの老婆の声。


 グレイヴンの、あの商会主の声。


 フェルドの、あの母子の声。


 確かめようは、ない。


 でも、いると分かっていた。


 この国の人々が、そこにいた。


 結婚が、交渉になった。


 いつかの日、私はそう書いた。


 訂正しよう。


 交渉の果てに、この式はあった。


 そして今日、この式は――


 交渉よりも、ずっと大きなものになった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!

次話、祝祭の翌朝。王妃の、最初の仕事。

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