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平穏④

 フォーマットされた影龍がマイカさんに噛みつこうとする。しかし、寸前でマイカさんが起き上がって刀で防いだ。

「……やっぱり似てませんね。形をなんとなく寄せてるだけで、本質はまるで違う。これで心置き無く潰せます」

 マイカさんは防いでる方とは反対の手に持つ刀で、影龍の頭部を斬った。さらに霧に隠れると一瞬で背後に回り、尻尾を切断した。そして今度は少し離れたレストレードの背後に回り込み、斜め上から振り下ろすように斬る。だがやはり、一撃で仕留めるのは不可能だったようだ。

「影龍! 戻って!」

 すると、影龍の偽物は急いでレストレードの方へ飛んで来ようとした。しかし羽ばたいても上手く飛べていない。よく見てみると、飛膜がボロボロに切られているのが見えた。そしてマイカさんは容赦なく連撃を浴びせる。レストレードは必死に汎用属性を利用して防いでいる。

「やっぱり……形を真似てるだけで全くの別物ですね。影龍の名前の由来……聞かされてないのでしょうか?」

 マイカさんの問いかけに、レストレードは答える余裕は無いようだ。無言で苦しそうな顔をしている。

「ただ黒いから影龍なんて名前が付いてるんじゃない……使い手の投影するイメージ次第で、どんな姿にだって成れる。心に写るものによって自由に形を変えられるから、影龍という名前なんです。もちろんイメージには守護獣(ガーディアン)の吸収が必要になってきますが……あなたは、その性質を全く理解できていない」

 そして徐々にレストレードの体に切り傷が増えていく。

(イケる! このまま押し切ってくれ! マイカさん!!)

 すると、マイカさんは連撃の合間に俺へ目配せをした。意図が上手く理解できないが、とりあえず回復したので立ち上がった。すると、霧の合間から影龍の偽物がゆっくりと歩いてマイカさんへ近づいて行っているのが見えた。

(あぁ、そういう事か。復活したばかりだってのに中々ハードな事やらせてくれるじゃねえか!)

 俺は走って影龍の偽物の前に立ちふさがる。そして、刀を構えて睨んだ。容赦ない前脚での引っ掻き攻撃が飛んでくるが、刀を体に沿わせて受け流して反撃を加える。そして、あえてバックステップで距離を取らずに前へ踏み込んで肩へ足を掛けると、大きく飛び上がって体ごと刀を影龍の偽物の首へ振り下ろした。

 確かに深い傷を付けた感覚がある。もっと体重をかけて切り落としたいが、もし偽物の影龍を殺して本物に影響があったら困る。念の為に瀕死程度で留めておいた。しかし、それがまずかった。半端に斬ったせいで体当たりによる手痛い反撃を食らう。マイカさんはついついソレに気を取られてしまった。

「アンタも……抜けてる所があるんじゃあないの? 自分の味方への甘さを過小評価してる……アンタを直接殺るのは難しいだろうけどさ、下っ端を半殺しにするのなんて訳無いのよ」

 気が緩んだマイカさんの頭部へ、レストレードの正確な汎用属性を纏ったアッパーが入る。どんなに強力な術を持っていても、素体は少女。MDSへのダメージは少なくても、物理的な身体負荷が相当なものだろう。マイカさんはフラフラとよろめいた後に、片膝を突いた。

(野郎ッ……いくら敵同士だからって、少女を殴り飛ばすだなんてあんまりじゃねえか……クソ、手助けに入りたいが……ダメだ、体が痺れてる。不甲斐ない……不甲斐ない……)

 そこで俺は、散っていった仲間達の事が思い浮かんだ。俺を生かす為に死んだ奴、俺に意志を託して死んだ奴、俺を育てて死んだ奴……思い返せば数え切れない程の思い出がある。今俺が諦めれば、マイカさんは殺られてヒロも死ぬ。そうなっちまえば他の仲間達が殺されるのも秒読みだろう……それだけは絶対に絶対に避けなければいけない。

「貴方も……一つ大きな誤算があったようで……」

「……は?」

 俺は刀を必死に握りしめてレストレードの方へと歩いて行く。

「茜力の原動力は精神。心さえ死ななければ、絶対に負けない。それを言葉で理解していても、もっと根本的な部分で飲み込めていないから、貴方は負けるんです」

 レストレードはハッとして振り返った。しかし、もう遅い。俺が飛ばした溜まった分の斬撃エネルギーは、もうすぐそこまで迫っている。防ぐ事は不可能。俺の魂が乗った一撃が、レストレードを捉えた。

「うッ……!!」

 完全に切断するには至らなかったが、確かに大事な血管を斬ったというのが目に見えて分かった。

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