平穏③
「クッソ……」
レストレードとの戦いが始まって十分程度しか経っていないが……既に俺の体はボロボロだ。アッチ側はどんどんヒロの術に適応して成長してやがる……翼の末端が白いローポリゴン3Dモデルから本物に近い黒の綺麗な曲線を描いた質感に変わっていっている。まだ頭部のパーツは生成されてないが……時間の問題だろう。
(やべぇ……これ全快な状態で挑んでも勝てるか厳しいな…………どうする? 逃げるは論外だ。ヒロも術を封じられた状態で戦うのは厳しいだろうし……でも俺じゃ勝てない……)
刀を取り落としそうになるが必死に耐える。しかし足元がグラつくような錯覚に陥る程に消耗が激しい。しかし、そんな俺に向かってレストレードは飛んだ状態で突進してきた。ギリギリ防ぐが、俺のMDSにヒビが入る感覚があった。
限界を感じて片膝を突く。すると、俺の背後……屋上の隅にある階段から誰かが走って上がってきた。
「あぁ、良かった……間に合ったみたいですね」
「マイカ……さん?」
「すみません、ちょっと迷いがあって来るのが遅れました。後は任せてください」
「すみません……情けない」
「いや、リク君は十分に頑張りましたよ。立派です」
「俺は……少し休みます…………」
「分かりました。では、後は私が引き受けましょう」
俺はその言葉を聞いて一気に脱力し、座り込んだ。
「さて……レストレード、でしたっけ?」
「アンタは確か、零眼の愛人だっけ?」
「違いますが……そういう認識でも構いませんよ、貴方は今ここで殺しますから」
するとマイカさんの気配が一変する。そして、側頭部に付けていた御面を真正面に付けた。
「久しぶりに……『冥怨の双』を本格的に使いましょうか」
橋姫の御面が一瞬だけ炎に包まれて、般若の面となった。するとマイカさんが蒼白の霧に包まれ、不思議な雰囲気を纏った。
「噂に聞く独自の汎用属性、『霊麒』……本物は初めて見たね」
「あぁ、そっち側も下調べはしてるんですね……まあ関係ないですが」
マイカさんは霧で屋上を包んだ。そして、軽快にバックステップをして霧に紛れる。
(……ッ!? マイカさんが消えた……どこだ?)
目を細めて探すと、レストレードの背後に立っているマイカさんが見えた。
(速いッ! どうやって一瞬で背後に回ったんだ!?)
そして、背後から思い切りレストレードを切りつけた。
「影龍を返せッ!」
初めてマイカさんが怒っているのを見たが……本当に鬼みたいだ。半分は般若の面のせいかもしれんが……
レストレードは焦って振り返ると、もうマイカさんはそこにいない。
「下調べとは言っても……私がコレを使って生きていた相手はいませんし、情報なんてたかが知れているでしょう。一知半解……知ったつもりでいる事の方が、全く知らない事よりも厄介なのかもしれませんね」
今度は正面からマイカさんが斬りつける。さらに、足を引っ掛けて転ばせた。そして再び姿を消し、今度は真上から高速回転での斬撃を浴びせた。
(マイカさんクソ強ぇじゃねえか、怖……)
しかしここで気付いたが、いつの間にかレストレードは混獣化を解いている。
「マイカさんッ!! 後ろ!!」
俺が叫んだが、もう遅かった。フォーマットされた影龍がマイカさんに強烈な一撃を放った。マイカさんの小さな体が、痛々しく屋上を転がって行った。
「……危なかった。なんとか追いついた……」
サイズは全長十メートル弱くらいか……かなり小さめだが、威力は十分なんだろう。
「アンタの固有術、ありがたくいただくよ」
レストレードはそう言うと、フォーマットされた影龍を転がっているマイカさんへと走らせた。




