平穏②
「やっとアタシの術が影龍に追いついてきたな……」
「チッ、お前も並の術者じゃないってぇのは理解してたつもりだが……まさかソレに対応するとはな」
「さぁ、ビビってないで掛かってきな」
(どうするか……様子を見ながら戦ってたら完全に適応されちまって殺られるだろう。カウンターメインでいくか……いや、急にまた新しい部位が生えてきたら対応できない…………となれば、答えは一つだな)
俺はゆっくりとレストレードの方へと歩いていく
(やっぱ強行突破だな)
━━━━━━━━━━━━━━━一方その頃、グラウンド━━━━━━━━━━━━━━━
俺は重い体を無理矢理起こして眼前の仇に向かう。
「アンタもうボロボロじゃん、しかも固有術とかなりの茜力も吸われてるのに……よく立ってられるね」
「テメェも……さっき俺にボッコボコにされた傷が治ってないんじゃあねえのか? お互い様だろ」
「……そうだね。もう馨華蜘蛛をフルサイズで出せないよ……だけど、もうほぼ一般人みたいになったアンタを始末するのには十分」
「忘れたか? テメェに出会う前……五年間も俺は術無しで戦ってたんだぜ?」
「そうだった、忘れてた……ただ、そっちも忘れてない? アタシはアンタと決別してから六百年近く経ってる。昔とは一味違うよ?」
「かもなぁ!」
その言葉と共に俺はハナへと襲いかかる。策なんてものは無い。残りの力を振り絞るだけだ。どうやらハナは蜘蛛の足を出すのが限界なようで、殺傷力の高い頭部は出してこない。
(ハイレベルな守護獣を出す方法は二つ。茜力や生命力を使って出す事、そして自分の体の一部を使う事……アイツは茜力を消費してるな。俺は一度吸い込んで吐いた煙を体の一部っていう判定にして無理矢理に影龍を出している。ハナは技術力の問題でヤニで出す事ができないんだろうが……蜘蛛足一本でも今は厄介だ)
俺は斜め上から来る蜘蛛足の刺突をスライディングですり抜けると、刀を抜こうとしているハナの手を思いっきり蹴って刀を押し戻し、強烈な左フックを顔面に叩き込んだ。女を殴るのは気が引けるが、容赦はしない。
さらに、流れるように姿勢を低くして足払いを仕掛ける。基礎的な茜力の利用はできるが……そもそもの総量がカスになっちまってるから、もうフィジカルに頼るしかない。
「どうしたッ!? お前の方が条件は有利だぜ!」
そう煽ると、抜きかけの刀の鍔と鞘の隙間から蜘蛛足が出てきて俺の脇腹を薄く切る。横に飛ぶと、ハナは飛び上がって刀を抜いた。
「アンタも大概、碌でもないね」
「そうか? 少なくともお前の顔面を殴れるなら百万円だって払うぜ」
少し周囲を見ると、マイカが苦々しい表情で加勢しようとしていた。
「マイカ! 気にするな! 復活したばっかりなんだから頑張らなくて良い!」
俺とマイカとハナは、一緒に暮らしていた時期がある。それもかなり長い期間。マイカは優しいから、親しくしていた人を殺すのに抵抗があるのだろう。刀を持つ手が少しだけ震えている。俺だって、こんな状況になってしまって心が痛まないわけではない。やるしかないんだ。
(マイカは今加勢しても逆に負担になる……俺一人で戦うしかない)
俺は血が滲む脇腹を軽く押さえた。すると、手のひらに血がベッタリと付着する。
「はぁ……めんどくせぇ」




