終幕……??
「どうしたッ! 俺を殺したいんだろ! やってみせろよ!! ほら!!!!」
「お願い……今コイツを殺さないで」
ヒロはかなり悩んでいるようだ。そして、ついに決める。目にも止まらぬ速さでカナイの背後に回ると、延髄を殴りつけた。カナイは気絶して地面に倒れ込んだ。
「……ユイ、コイツを地下室に拘束しておいてくれ。頼む」
「分かった……ありがとう」
俺達は、そこでやっとグラウンドまで降り立った。
「ヒロ……ユイさん……」
「おぉ、リクと……なんかいっぱい居るな。折角来てもらった所悪いんだが、もう終わったぜ。紅蜘蛛華もシバいた。カナイの野郎もひとまずは落とせた。両方生きてるだろうが……下手に殺すと守護獣が本体の生命力を全部奪って暴走するかもしれないし、一旦これで手を打とう」
「……そうか。念の為にさっき緊急放送のやつで全員集合するように言ってある。もうすぐ生き残ってる幹部は全員来るぜ……”全員”な」
「……あぁ、ありがとよ」
「あの……あなた誰です?? なんかヒロさんに似てますけど……」
ショウタさんがヒロに声を掛ける。そりゃそうだ。ユイさんと俺は姿を知っているが、ショウタさんやその他の人達は初めて見るだろう。
「あぁ……そういえばこの場の殆どの奴は知らなかったな。俺がこの組織のボス、零眼だ」
「「「えぇ!?」」」
「ちなみにガチだぜ。本当にホンモノの零眼だよコイツは」
「それもビックリだけど……リク君はなんで普通に友達みたいな感覚で話してるの!?」
「まあ……それには色々と事情があってだな……まあこの際全部話すか。とりあえずはこの事態を収めよう」
クリスさん達はキョトンとしている。確かに、紅蜘蛛華と製作所の主戦力を抑えてしまえば終わりに思えるだろう。しかし、俺達にはまだ重要な二つの任務が残っている。製作所社長のダン・レストレードへの対処と、裏切り者の十眼の処刑だ。
そしてヒロが紅蜘蛛華を監視しつつ、俺達は気絶したカナイを地下牢へと運んで拘束した。
「あの……このままで良いんでしょうか? ユイさん。コイツ、今は茜力も完全に切れて寝ぼけてますけど……目を覚まして茜力が回復したら暴れ出すんじゃないですか?」
「多分、零眼の茜力が完全に回復したら影龍で取り込むんじゃないかな? 今の零眼はかなり消耗してるから……多分取り込んでも負荷が強すぎてダメだよ。制御しきれずに影龍が暴走するか、死んでしまう」
「そうですか。じゃあひとまずは待ちですね」
「だね。じゃ、グラウンドに戻ろうか」
「はい。あ、そういえばユイさんってヒロの本名知ってるんですか?」
「あ〜……うん、知ってるよ。でも、言えないかな」
「何故です?」
「彼が本名を隠してるのは、過去の弱い自分を決別するためだよ。未熟で弱かった頃を消し去るために本名は黙ってるんだ」
「そうだったんですね……じゃあ詮索もしないほうが良さそうですね」
「そうだね。今回の一件でアイツも少し精神性に変化があったみたいだから、もしかしたら名前を明かすかも知れないけど……」
「だと良いんですが……」
俺達がダラダラ話しながらグラウンドに戻ると、そこには既に数十人の契約者達が集まっていた。皆かなり消耗してしまっているみたいだ。そして、そこには忌まわしき十眼……岡崎の姿もあった。明らかに動揺したような顔で立っている。
「ヒロ、とりあえずカナイを牢にブチ込んでおいたぞ」
「おぉ、二人ともありがとう。じゃあ後もうひと仕事だな」
「……そうだな。あと、影龍の複製体を飛ばしておいたから間もなくマイカが帰って来るぜ。もちろん裏切りの件も伝えてある。処刑はマイカの任務だし、サッサと始末してもらうぜ。」
「了解だ……」
「あ、一応言っておくと別にマイカに処刑任務を押し付けてる訳じゃないぜ? 本人から進んで就いた役目だ。ありがたいことにな」
「そうか……あと、守護獣って複数体出せるもんなのか?」
「いや、普通は無理だ。俺が結構鍛えまくってるから、結果的に複数出しても問題なくなっただけ。ユイも、あと数百年努力を続けたら複製体を出せるようになるだろうよ」
「そんなもんなのか……ちなみに何体出せるんだ?」
「三体だ。ただし、複製体を出したら当然本体の出力は落ちる」
「へぇ……」
すると、グラウンドに大きな影が滑り込んできた。見上げると、ワイバーン型の影龍がこちらへ飛んで来ている。
「……来たな」
「みたいだなぁ……」
そして降り立った影龍の背中から九眼、電話をくれた新入り、そしてマイカさんが降りてきた。
「マイカ……怪我の方はもう大丈夫なのか?」
「はい。お陰様でバッチリ回復できました。迷惑を掛けてしまいすみません」
「良いんだよ。むしろマイカはよく働いてくれた。急で悪いんだが、処刑任務を頼めるか?」
「はい……既に伝言は受け取っております」
するとマイカさんは十眼の方まで歩いていった。奴も裏切りがバレたのを察したのか、身構えている。そしてマイカさんとの距離が五メートル程になると、懐からナイフを取り出して斬り掛かった。スパイや暗殺の任務をよくやっているからか、動きに無駄が無い。
しかしマイカさんは冷静に小太刀を片方抜くと、その細い片腕の力だけで防御した。
「クッ……!!」
十眼が次の一手に移ろうとしたのと背後に回ったのと同時に、マイカさんの側頭部にある御面が青い炎に包まれた。そして火が消えると、増女の面が橋姫の面に変わっていた。するとマイカさんの動作が目に見えて素早くなり、その勢いでもう一本の小太刀も抜いて二刀流になった。そのまま振り返って十眼のナイフを弾き飛ばして、もう一方の刀で斜め上に胴体を斬り上げた。
「裏切り者が……もうお前を仲間とは思わない。死ね」
マイカさんは振り返った時の回転を維持したままま飛び上がると、コマのように回って連撃を浴びせた。しかもその細かな一撃は全て、一度斬った所と同じ箇所を斬っている。つまり、段々と切られた部分が深くなっていくという訳だ。まるで回転ノコギリのように、マイカさんは十眼の胴を真っ二つにした。
増女、橋姫等が何か分からないという方への簡単な説明をしておくと……
上記の二つは能面の一種で、増女⇛泥顔⇛橋姫⇛生成⇛般若⇛真蛇 という順番に、女性の嫉妬や怒りを表していく最も恐ろしい能面達でございます。




