殺せない理由
「ねえ、あそこに居るのユイさんじゃない?」
クリスさんがそう言って、グラウンドの茂みの中を指差した。よく見てみると、茂みの中に匍匐前進の形でじっとしているユイさんが居た。俺達は上から見ているから分かるが、グラウンドに降り立ったらもう見えないだろう。
「ユイさん……無事だったのか。よかった」
(……何やってるんだユイさん。ステルス攻撃をしようとしている……?? いや、ユイさんに遠距離攻撃手段なんて無いはず……わざわざ伏せる意味なんてあるのか? というかコウさんの方はどこに行ったんだろうか……)
じっと見ながら考えていると、どんどん敵の龍の動きが鈍くなっていく。一方で影龍の動きは全く衰えずにガンガン攻めていく。ついには敵の龍が地面に足を付けた。
「バカな……クッソ! 認めねえぞ! 俺の天龍が負けるなんて!」
「もう喚くな、見苦しい」
「野郎ッ!」
「ていうか、お前はもう負けてるって事にいい加減気づけよ。アホが。そもそも俺がお前如きに姿を見せてる時点で、確実に仕留められる自信がある」
「何ィ!?」
「ユイッ! 今だ! やっちまえ!!」
ヒロがそう叫ぶと、グラウンドの地中からクラーケンの触手が伸びてきて天龍をガッシリと地面に抑えつけた。
「なッ……!? テメェ、卑怯だぞ!」
「ウチのもん唆してセコセコ奇襲を仕掛けようとした時点でテメェらも大概だろうが。ここまで来たら卑怯だとか甘ぇ事は通用しないっていう事ぐらい分かるだろ? お前に許可された選択肢は、今すぐ守護獣を解除して降伏する、諦めて俺に殺される。この二つだけだ。選ばせてやるよ」
「……ッ! 降伏するくれぇなら死んでやるよ! ド畜生影野郎ッ!!」
「……そうか。分かったよ」
ヒロはそう言うと、影龍を引き寄せて身に纏う。ジェイキーとの戦いで見た混獣化だ。
(オイオイ……ここまでガチで行くってことは、本気でこの場で天龍を殺す気なのか……?)
すると、カナイは天龍を解除した。そして、ニヤリと嫌な笑みを思い浮かべてヒロに対して応戦する。だが当然、ヒロに敵うはずは無い。ヒロは縦にツイストしながら体を上下反転させるように半回転して、強烈な回し蹴りをカナイの頭に叩き込んだ。しかし、カナイは不気味な笑顔で立ち上がる。
「……今のジャイロキックで死なないとはな。ちょっとお前の事を過小評価しちまってたぜ」
「さぁ……トドメを刺せるもんならやってみろォ! 零眼ッ!!」
「あぁ、言われなくても殺してやるよ」
吹っ飛んだカナイに向かってヒロが翼で加速しながら飛んでいく。そして、宙返りしながらかかと落としをしようとした所で、ユイさんのクラーケンが足を絡め取った。いつの間にか本人もすぐ近くにいる。
「待って……今コイツを殺しちゃマズイ事くらい、アンタも分かってるでしょ!?」
「……だがコイツはッ! カイセイを殺りやがったんだぞ!? 引き下がれるかよ!」
「今ここでコイツを殺したら、間違いなくコイツの中の天龍が暴走するでしょ! そうなればボロボロのアンタは助かるかどうか怪しい……」
「俺の命もカイセイの命も同じくらい大事だろ!? カイセイを綺麗に送ってやる為にもコイツは殺さないと!」
「アンタに会えなくなったら……マイカちゃん悲しむよ?」
そこでヒロはハッとした顔をする。
「もちろん、アタシだって会えなくなるのは悲しい。カイセイの事だって……大切に思っていた。アタシだってコイツを今すぐ殺してやりたい……でもやらない。それはアタシ達の帰りを待つ人達がいるから、そうでしょう!? 死に急がないで……お願い……」
「……」
(ん、なんだコレ。どういう展開??)




