天龍乱入
しばらくの間必死に天龍の尻尾にしがみついていると、俺達の拠点が見えてきた。部下はあの場所に置いてきてしまったが……きっと大丈夫だろう。そして、天龍はそのまま拠点の建物内に突っ込もうとしている。うっすら見えただけでも、かなりの人数が戦っているのが見えるし……屋上では花のような紅い蜘蛛と、黒いドラゴンが戦っている。両方とも見たことがない守護獣だ。
(この天龍とかいう守護獣……加速しているッ!! このまま俺達の拠点を滅茶苦茶に破壊して敵味方問わず皆殺しにするつもりだ! それだけはマズイ……あそこの蜘蛛とドラゴンが何者かは知らないが……争ってるって事はどっちかは味方っていう認識で当たってるだろうし、このイカれた龍を止められるのはあの守護獣達くらいしか思い当たらねえ……このまま突っ込ませるのだけはマズイぜ!)
俺は必死に龍の体をよじ登って先頭の方まで行く。
(俺の茜力はギリギリだが……あそこの全員を生き残らせる為にも、絶対に突っ込ませる訳にはいかねぇ!『大脳的なランデヴー』……この回転を付与する術を生物に対して使った事はあまり無かったが、きっと今の俺なら十分に効果を発揮できるだろう。回転で視覚情報と平衡感覚を乱して、この龍を落とす!)
俺は全力で天龍の体に術を付与した。すると軽く上下に蛇行しながらも真っ直ぐ飛んでいた天龍は、意思とは無関係に空中で荒ぶりだした。そしてそのまま、中庭を囲う建物の壁にブチ当たった。
狙い通りに軌道を乱せたが、俺はそのまま投げ出されて中庭に落下した。一眼と敵らしき奴が戦っているのが見えたが、気にしている余裕は無い。
(いってぇ……こりゃあ今日中の復帰は無理だな…………でも……誰か天龍を止めないと。とりあえず、死体から茜力と生命力の残りカスを吸収して動けるようになるか……レンさんからやり方教わっといて良かったぜ)
俺は地面を這って一番近くにあった死体に手を伸ばす。
(あぁ、これリクか……死んじまったんだな。残念だ…………お前の意志は無駄にはしない。茜力はもらうぜ)
すると、リクはバッと顔を上げた。生きていたみたいだ。そして、腕で這ってコウさん達がさっきまで戦っていた所へ向かおうとしている。もう二人はどこかへ散ったが、リクには分からないようだ。こんな死にかけの体じゃ、まともに前も見えないだろう。トドメを刺すようで気が引けるが、速く茜力と生命力を吸って楽にさせてやろう。
「ハル……ごめん…………ダメみたい……だ」
俺はリクの足をガッチリと掴んだ手の力を、思わず緩めた。俺ならとっくに諦めるレベルの傷を負ってもなお、コイツはまだ進むのを辞めない。大きな外傷は見受けられないが、かなり消耗しているのは一目瞭然。一体何がコイツを突き動かしてるのか謎だ。もう意識を失っているだろうに、それでも突き進んでいる。
(……どうする? アッチの死体まで這っていく体力はもう無い。助かるにはリクから力を奪うしか方法は無いぞ……だけどコイツは、俺以上に強い意志を持っている。俺の見込んだ通りの男だ。俺は死にかけの相手や死体から茜力と生命力を吸い取れるが、反対に死にかけの奴に力を託す事もできる。念の為に覚えておけとレンさんに教えられたが……俺がコイツに全部を捧げれば、きっとすぐにリクは復帰できるだろう。だが……俺も自分から死を選ぶのは気が引ける…………どうする……)
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俺は目を覚ますと、強烈なデジャヴに襲われた。
(ここ……あの時の桟橋か!? どこまでも続いてる……俺、死んだのか??)
神と名乗る少女が俺を呼び出した時と同じ場所に俺は寝ていた。意識がハッキリとしないが……俺はあのまま死んでしまったんだろうか。
「よお、リク。目が覚めたか」
なぜか、起き上がった俺の横にシンタロウが立っていた。
「シンタロウ……なんでお前もここに……? あ、そっか。俺達もしかして、揃って死んじまったか?」
「いや、死んだのは片方だけだぜ」
「……は? それってどういう━━」
「俺がお前に茜力と生命力を託して死んだ。それだけよ。最後に一言挨拶してぇなって強く思ったら、なんかお前をここに連れてこれた。俺が完全に逝ったら多分お前の意識はもとに戻るぜ」
「……何言ってんだ、シンタロウ。お前……え、は?」
「だから、後は頼んだぜ。俺の分まで生きてくれ」
「待てよ!」
「……なんだ?」
「なんで俺を生かしたんだ……お前が助かる道だってあっただろう!?」
「お前に希望を感じたからだ。正直お前を助けるか迷ったが、後悔はしてねえよ」
「それで、別れを言うために俺をここに連れてきた……のか」
「そういう事だ。じゃ、見送ってくれよ」
「……おう」
俺は立ち上がると、握手のようにシンタロウと強烈なハイタッチを交わした。
「じゃあな」
「……ありがとう。じゃあな……」
申し訳なさや不甲斐なさ。そして何よりも、五十年以上の付き合いであるシンタロウと一生のお別れだと思うと涙が込み上げてくる。
「オイオイ、泣くんじゃねえ。俺達の最後に涙は似合わねえだろ? 笑って送ってくれよ!」
「あぁ、すまない……」
「リク、じゃあ頼んだぜ」
シンタロウは、そう言うと無限に続く桟橋を進んでいった。少し離れると、眩い光に包まれ始めた。そこでシンタロウが振り返る。そして、パッと笑って手を軽く上げた。
「シンタロウッ!!」
俺は眩しさで薄目になりながらシンタロウの名前を呼んだ。
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「シンタロウッ!!」
俺はそう叫びながら目を覚ました。周囲を見ると、あちこちに片玉魂が散らばっている。今中庭にいるのは俺だけみたいだ。
(この片玉魂……あ、中庭に転がってた死体のやつか。ってことは俺が気絶して十分以上は経ってるな……一体何が起きたんだ)
そこで俺は、足首に違和感を感じて振り返る。するとそこには、シンタロウの死体があった。俺の足首を掴んだまま息絶えている。そこで、先程までの夢の内容が鮮明に蘇った。何とも言えない感情が湧き上がってくる……だが、涙は流さなかった。
「シンタロウ、ありがとう」
俺はそう言って半開きのシンタロウの死体の目を閉じた。そして、中庭に落ちている十個程度の片玉魂を残さず吸収した。魂の持ち主の術の練度が低すぎて、固有術を復元して取り込めない。だが、今は茜力と生命力が戻ればそれで十分だから気にしない。
R.I.P.シンタロウ&カイセイ




