アナタを信じているから
俺達はゆっくりと話しながら、歩いて拠点まで帰った。短い時間だったが、少しだけヒロの事を知れたような気がする。茜術が広まる前からずっと生きていた事や、紅蜘蛛華とは数百年の敵対関係である事……その他にも雑多な事を教えてもらった。
(やっぱ人間離れしたこの人も、元はただの少年だったんだなぁ……)
そんな事を思っていると、拠点のある小山の麓まで来た。登るのが少々面倒くさいが、早く休みたい一心で足を動かそうとした。すると、拠点のある頂上周辺から大きな爆発音が聞こえた。
「……ッ!?」
「なんだ……今の……」
ヒロは酷く強張った顔をして一瞬でベイプから影龍を出すと、それに乗って上まで飛んで行ってしまった。俺も慌てて坂を駆け上がる。
(どうなってやがる……!? まさか、ヒロの不在を狙って襲撃があったっていうのか? いや、でもそんなまさか…………ジェイキーの言っていた裏切り者のチクリ野郎がバラしたってのか!? でもなんで……どういう理由で、どうやって引き連れて来たんだ……!? クソッ……考えが纏まらねえ……先に行ったヒロは大丈夫か!?)
そうして拠点の前に着くと、拠点のあちこちで既に火の手が上がっていた。建物はボコボコに壊れていて、見る影もない。戦争映画の紛争地なんかが、正にコレと同じ情景だ。そして、そんな中にポツンと膝から崩れ落ちているヒロが見えた。
「クソ……フザケやがって…………野郎ォッ!!!!」
ヒロはヤケクソになって地面を殴りつけた。
「誰だァッ! 面見せろやああぁぁーーーッ!!!!!! 畜生がぁ! ナメてんじゃねえぞオイ!」
落ちる涙を振りまいて暴れるヒロは、もう目も当てられない程に心が絞め付けられた。これが最強に成った男の姿か……?? 少なくとも目の前で絶望に溺れるコイツは、赤子にも劣る程に弱く見える。味方の俺ですら、こんな風にボロックソな評価を下すしかない程に無様だ。
すると、瓦礫の下からうめき声が聞こえてくる。ヒロはそれを聞き逃さず、バッと飛びついた。そして大きな瓦礫の破片を軽々と腕力で払いのけると、そこには十契の新入りが倒れていた。新入りとは言っても、もう入って六年程経つが……
「お前はッ! 生きてたのか! 待ってろ今瓦礫を全部どけてやる!」
「いや……良いんですよ、ボス…………俺の両足は……もう潰れています。血も流しすぎた……もう助からないでしょう…………だから、コレを……」
すると新入りは、自由になった片腕で黒い布に包まれた何かをヒロへ差し出した。
「コレ…………アナタや、最上幹部の皆さんが……大事そうに守ってた……」
「マイカの御面か……なんで……」
「一眼の方が俺に……渡してくれたんです。真っ先に狙われるのは俺達だろうから、お前がこっそり持っててくれ……って。幸か不幸か……その読みはアタリみたい…………ですね。念の為に……覚えたてのMDSで御面を優先して守ってて正解でした」
「お前……まだ入って浅いだろう!? なんで……全部投げ出して逃げたって誰も責めないはずだッ!」
「俺は……俺達は……アナタを信じているから。だからここまで……着いてきたんです。マイカさんの居場所は……バレてないみたいです。だから、後は頼みました」
ヒロはその言葉を聞いた瞬間に、ハッとした顔をした。強い衝撃を受けたようだ。新入りの呼吸は、瓦礫をどけた時からどんどん弱く小さくなっていっている。間もなく死ぬのは誰が見ても分かる。
「最後にッ! 誰が裏切ったかだけでも教えてくれ! お願いだ!」
ヒロは新入りの体に触れる。血で手指がベッタリ汚れているのも気にしていない。
「裏切り者……は…………岡……崎…………」
新入りは最後にそう言うと、それっきり瞬きと呼吸を止めた。彼は、立派に使命を果たした。ヒロは新入りの最後を見届けると、触れた手の体温の低下を感じながらそっと立ち上がった。そして斧を生成して、しっかりと手に握る。
「何をしようとしてるんだ……ヒロ……?」
「一眼、二眼、三眼、その他の幹部も殆ど殺られただろう。散り際に放ったであろう皆の術の痕跡があちこちに見える。俺はジェイキーの術を取り込んだ。つまり、死に際で時間を戻せる能力だって吸収してるはず……だろ?」
「まさかお前、その斧で自分の首を切るつもりか!?」
「そうだ。質の高い術者程、術を似た性質で取り込める。優秀なコピーを作り出せるんだ」
「でも……瀕死で発動できる術が取り込めた保証なんて無いだろ!? それに仮に、襲撃前に戻せたとして……またジェイキーと戦うのか!?」
「その点は問題ない……はずだ。俺は時間を戻す術に全茜力を集中させる。そうなれば、手に入れたばかりで定着の浅い『情動再生』は体内で焼き切れて片玉魂ごと消滅するだろうよ。つまりは、魂が消失するから復活できない……はずだ。こんな事が起きたのは始めてだから、何から何までギャンブルになるな」
「なんで……お前はそんなに……」
「この瓦礫の下で命を散らせた皆が、俺を信じたからだ。俺も皆を信じてみようと思う。そのためには、まず自分を信用してみないとな」
するとヒロは、笑って俺に手を差し伸べた。
「リク、お前もついて来てくれないか」
ここまで言われると、俺の迷いもすっかり消えた。夕焼けに照らされたヒロの顔は、涙は浮かんでいるが濁りは無かった。俺はヒロの手をガッシリと掴む。それと同時にヒロは斧で自分の首を切った。すると、あの時のように風景が歪む。




