契約試験①
俺は客室に少しの荷物と四尺刀を置いた後、別の棟にある風呂に入り隣の食堂で飯を食べた。すると、急に眠気が強くなってきたのですぐに客室に戻って寝た。客である証拠のリストバンドを貰ったため、食堂や風呂で変に絡まれることはなかった。なんなら、何人かはフレンドリーに話しかけてくれた。組織の男女比は七対三くらいみたいだな。
「リク、起きな。もう朝10時だぜ」
そんな声で俺は起こされる。
「そろそろ朝飯食って試験やるぞ、試験官は俺だ」
「ん……おう」
まだ体が疲れているが、しょうがない。俺は食堂で朝食を食べると、四尺刀を持って客室を出た。そこにはヒロともう一人、能面の……確か増女? を側頭部に付けた小学生か中学生ほどの可愛げな少女がいた。腰に刀もさしている。
「ヒロ……この子は?」
「ボスの代理だ。この方はボスの直営隊唯一のメンバー、つまりうちの組織で二番目に強い。ボスと同じ存在と思いな」
「お、おう。分かった……あのぉ……」
「……どうかしましたか?」
「失礼な物言いをして、すみませんでした」
「あぁ、構いませんよ。知らなかったのなら仕方ありません」
「それで……その、あなた?」
「あぁ、自己紹介が遅れました。和舞 袂河と申します。私の事はマイカと呼んでください」
「分かりました。マイカさんは、試験官ではないんですよね?」
「はい。私は試験の様子を監視するために来ました」
「そうなんですね……」
「ほら行くぞ、武器は持ったな」
「あぁ……」
やはり見た目通りの幼い声をしているが、その立ち振る舞いや抑揚はクールで、まるで礼儀正しい大人の女性のようだ。そして、案内されるがままついて行くと食堂の上にある体育館に案内され、入ってみるとそこは体育館を元に改造された闘技場となっていた。戦うステージの中心に立つと、マイカさんが口を開く。
「試験内容を発表します。今回の契約試験では、ヒロとリクに五分間戦ってもらいます。そして、一度も足裏と手のひら以外を床につけなければ合格としましよう。当然、手を抜くのはダメですよ? ヒロ」
「……マジですか? いくら俺の見込んだ男だとしても、術持って二日目で俺の猛攻に五分耐えるのは難しいと思いますが……」
「そうでね……私もそう思います。ですが、今回の試験内容を決めたのはボスです。彼の意に反することはできません。それと、怪我防止のためにヒロの武器は銃形態での使用を禁止し、大剣形態での使用のみに限定する……とも伝えられています」
「承知しました……」
「では、私は上の観客席から試験の様子を見ますので……二人とも頑張ってくださいね」
そう言うとマイカさんは壁に囲まれたステージを出て観客席に登った。やはり、身長といい歩幅といい
どこからどう見てもロリだ。
「構えな、リク。」
ヒロがそう言って銃をスピンコックのように回すと、遠心力で変形して大きな片刃の剣になった。すごい機構だ。これを自作したってんだから凄いな。俺も対抗するように四尺刀を抜いて構える。防御メインのため、左手に鞘を持って二刀流のような構えで戦う。
「では、始め」
マイカさんの冷淡な声と同時に、ヒロが踏み込んで距離を詰める。俺は咄嗟に鞘と刀でクロスしてガードをする。だが、相手の武器の方が質量的に勝っているようで、少しずつ押された。
(やばいな……このままだとひっくり返される。)
そう思い、俺はグッと姿勢を低くして片足をヒロの両足の間あたりに持っていきそのまま立ち上がるようにしてヒロを軽く弾いた。
「やるな……殺す気はないとはいえ、そこそこの経験があっても今のを耐えられない奴もいる」
「ヒロ……少し手加減してるでしょう?本気でやりなさい。手抜きはリクにも失礼です」
「あー……やっぱりバレるか。しゃーない。悪いが、本気でお前を落としにいくぞ」
「かかって来なぁ!! ヒロ!!」
「図に乗るんじゃあない!!」
どうやら余計な事を言っちまったみたいだ。さっきよりも数段速い踏み込みでヒロが迫ってくる。だが、今度はこっちから行かせてもらうぞ。
俺はヒロの方へ走りながら鞘を床に突き立てると、垂直に重心を乗せて飛び上がった。鞘で軌道とパワーに補助をかけたため、俺の体は床から二メートル程まで浮かんだ。そのまま捻りを加えて、ちょうど真下に来たヒロに鞘を叩きつける。ヒロは直前で気付いてガードをしたが、それなりの重さがある鞘を真横から叩きつけたので、重心が崩れて倒れた。
俺はその一瞬で安全を確認して着地する。手も床に着けて良いと言われたので、安全のために四肢をフル活用して着地した。無事に着地できたと一安心していると、ヒロは跳ね起きで立ち上がり軽く首を鳴らした。
「良いぃーじゃあねえか。やるなぁ」
真顔でそう言うヒロに寒気を覚える。今何分経った? そう思い時計を見ると、まだ二分弱ほどしか経っていなかった。チラッと時計を見た後視線を戻すと、ヒロがいない。
「時計見てる余裕なんかあるのか?」
ヒロの声が俺の真後ろから聞こえた。反射的に前へ飛びながら振り返り、その勢いで鞘を叩きつける。ヒロはそれを軽く受け流し、大剣の側面に体を沿わせて俺に突進してきた。思い切りぶつかられて、壁に背を打つ。
「足りないなぁ……覚悟が足りない」
薄れゆく意識の中ヒロがそう呟くのが聞こえた。




