情動再生②
沈黙の喫煙の後、無事にレスパリのシマに入る事に成功した俺達はとりあえず朝イチで開いてる飯屋に入って軽い朝食を取った。レスパリ側のスラムは、十契スラムとそこまで大きく違うようには思えないが……やはり目に付くのは、明らかにヤクの打ち過ぎでブッ倒れてるような人が数人見受けられるって事だ。以前にヒロが言っていた通り、こっち側では違法薬物が平気で出回っておりその売買を取り仕切っているのもレスパリらしい。
(ひっでぇな……俺等がさっき食った朝食にもヤク入ってたんじゃねえの??)
そんな事を思っていると、ヒロがボロッボロの建物にスッと入り込んだ。どうやら、深夜営業が終わって〆作業をしている居酒屋のようだ。
するとヒロは、何も言わずに恐らく貴金属類か何かが入っているであろう袋をカウンターに置くと、そのままカウンターの内側に入った。店主もその流れを把握しているようにスッと店の奥へと続く扉を開けた。お互いに目も合わせていない。双方かなりのやり手なようだ。
さらに店の奥にある階段を降りると、通路が続いていた。丸くて径の大きな土管のようだ。左右には、工事現場によくある赤色の電灯がズラッと奥の方まで続いていた。
「行くぞ。ココはレスパリ本部に続いてる」
「え、本部に潜入するのか!?」
「いや違う違う。流石に俺単独で突っ込んだら相打ちがやっとだぜ。ここは昔、大雨の時に雨水を溜める用の貯水槽に排水する為に作られたんだが……今じゃレスパリの巡回用通路みてぇになってんだ」
「そうか……てことはこのまま進めば貯水槽に出るって事か?」
「そういうことだ。そして……ウチの組織の中に裏切り者がいる」
「……!? 誰だ??」
「そこまでは分からん。組織に入る契約書にサインした奴が、違反事項の一つの『内通』をしたら俺にそれが知らされるような仕組みの術を付けてあるんだが……さすがに数百人のデータを小分けに管理するのはできないからな……」
そうこう話しているうちに、ボチボチ地下通路の先にある開けた空間らしきものが見えてきた。
「そうだったのか。というか、なんでそんな術を?」
「偶然手に入ったっていうのもあるが……やっぱり人を完全に信用することはできないからな。どこまで行っても他人は他人、心の奥底まで見透かすなんて不可能だ。だから、信用できない」
「そりゃあ一理あるけどよ……それでお前は楽しいのか?」
「そりゃ辛い事もあるがよ。現にこうやって裏切り者が出ているんだから、そう安々と信用できんぞ」
「でも……コウさんやカイセイさんは、マイカさんの御面を大事に必死に守ろうとしてたぜ?? 確かにクズも居るんだろうが、全員がそうって訳でも無いだろ」
「……リク」
「なんだ??」
ヒロは強張った顔でコッチを向いた。さっきの発言で怒らせてしまったかとも思ったが、そうではないらしい。
「ここ……さっきも通ったよな?」
「え??」
全く景色が変わらない道を歩いているので気づかなかったが、確かにどれだけ歩いても出口に辿り着かない。出口付近百メートル弱を何度も歩いているみたいだ。
「ちょっとそこで立っていてくれないか? ほんの一瞬でいい」
「え? あぁ、分かったぜ」
俺は一旦立ち止まった。すると、ヒロは目にも止まらぬ速さでバッと出口まで駆ける。すると、ある程度進んだ所でまた俺の目の前に戻された。しかも、踏み込む前と全く同じ姿勢と位置で。まるで、ヒロの行動だけが数秒前に戻されたようだ。
「マズイな……」
「あぁ……コレって……」
「そう。俺達は既にジェイキーの固有術にハマってしまってるみたいだ」
そこで、出口の奥から一度聞いた事のある声が聞こえてきた。
「気付いたみたいだなぁ!! 合格だ! 入るのを許可するぜ!」
その一言で、俺達は出口までダッシュした。すると、貯水槽なだけあってかなり広い空間が広がっている。俺達が通っていた通路は、その開けた空間の上側に付いていて降りるための金属製のハシゴが見えた。だがヒロはそのまま降りると攻撃を受けると判断したのか、ベイプをサッと吸って煙を吐いて影龍を出し、俺を引っ掴んで背中に乗せると自分も乗り込んで通路から飛び出した。そこそこなサイズで出された影龍でも、不自由なく飛べる程の広さがある。そして、全面コンクリで出来た無機質な空間の一番下にジェイキーは立っていた。
「来たな! 零眼……ッ!!」




