アクアサーペント④
アクアサーペントは浅く潜行すると大きく飛び出して、スラム地区とスラム外を分けている川を飛び越えた。そして、スラム外……つまりはほぼ全員が戦闘能力を持たない非術者の住む方の砂浜を素早く這い始めた。
「零眼! マズイよ! アレを使って!」
「……致し方ないか」
ボスは斧を地面に突き立てると、手を離した。さらに、ボスはなぜかタバコを取り出して火を付けた。大きく煙を吸って吐く。
「……ボス!? 何やってるんですか! 早く追わないと!」
「いいやリク君。これで良いんだよ」
「え、それってどういう……」
ユイさんはなぜか満足そうな安心したような顔をして、ボスを見つめた。俺は何も言えずにただ雨に打たれて立ち尽くす……。すると、ボスの吐く煙が雨にかき消されずに滞留し始めた。そして段々と纏っていき、形を成していく……。
(この形……ドラゴン…………??)
煙はドラゴンの頭部の様な形になっていくと、明確に生命のような動きをし始めた。
「本当の姿で出ておいで、『影龍』」
ボスのその一言で、淡い白色だった煙が末端から黒く染まり始める。そして形を成したソレは、黒い体に空色の模様と光が目立つ西洋の龍だった。
「二人も乗るか……? 百パーセントの安全は保証できないが」
「もちろん乗るよー」
「俺も……乗ります!」
ボスは軽く頷くと、ヤニを咥えたまま大斧を拾う。よく見てみると、刃とは反対側の端には奇術師の茜力結晶が埋まっていた。
「ソレ……奇術師のやつですか……?」
「ん? あぁ。この空色のサファイアのことか? まあ……そこら辺は明かせないなぁ」
「そう……ですか」
「ほらリク君、早く影龍に乗って!」
俺はそう言われユイさんに続いて影龍に乗り込んだ。ボスも続いて首元に乗ると、影龍は力強く跳躍した後に翼を大きく広げて飛び始めた。さっきのワイバーンの数倍はデカい……
空から見下ろすと、アクアサーペントは砂浜から海岸沿いにあるタワーに進んで行った。幸い、大雨だったので砂浜に遊びに来ている一般人や観光客は居なかった。そして、アクアサーペントはタワーに到着すると巻き付くようにどんどん登り始めた。ゴロゴロと雷が鳴っている雨空なのに、なぜ登るのかは理解できない。
「零眼! 撃ち落とせる?」
「無茶言うなよ、ここからじゃブレス撃っても外れてタワーに当たったら洒落にならねえし……もし撃ち落とせたとして、落っこちた衝撃で大迷惑を掛けちまうよ……」
「……一体どうすれば」
「まずは様子見だ! まだ周囲の人間を食い散らかそうとしたりはしてねぇし……そう焦るな! ただ、一般区域に侵入した時点でもう見過ごせない。だから、必ず仕留める! 約束する!」
会話が高度すぎて俺は何も言えない。すると、頂上まで到達したアクアサーペントは天高く伸びる避雷針に巻き付いて動きを止める。
(……何をしているんだ……??)
次の瞬間、避雷針に轟音の雷が落ちた。あまりの眩しさに目を閉じてしまったが……次に目を明けると、バチバチと弾ける電気を全身に纏っているアクアサーペントが目に留まった。
「避雷針で雷のエネルギーを摂取して茜術に転用……獣の割には頭を使うじゃねえか」
アクアサーペントは俺達に気がついているようで、頭だけをこちらに向けると雷が混ざった水ブレスを大砲のように飛ばしてきた。しかし、影龍はそれを軽々と避けてホバリングを続ける。
(アクアサーペントの大きさは大体三十メートル以上……ボスの影龍は大体二十メートルちょいか? まあサイズはほぼ互角だな……)
チマチマ撃っていては当たらない事を悟ったアクアサーペントは、タワーの周りをグルグルと這い始めた。そして、急にバッと勢いに乗ったままジャンプして俺達の方へ口を開けて飛んでくる。
「うお!? マジかよ!」
ボスもこれには想定外だったようで、影龍はアクアサーペントと正面衝突した。しかし以外にも、制御不能で落ちる……といった事はなく、影龍は器用に手足と口でアクアサーペントを空中で抑え込んだ。しかし、アクアサーペントは必死に暴れて俺達を落とそうとしてきた。
「……ッ! いい加減に往生しろぉ!!」
最早ヤケクソになったユイさんが、クラーケンの触手を背中から出してアクアサーペントを拘束した。
「ありがとう、ユイ。それじゃ、あんまり好きじゃないけど……少々荒っぽくイカせてもらうよッ!!」
ボスがそう言うと、影龍は砂浜の方へと高速で飛んだ。再び砂浜が見える。案の定、海に来ている人は誰も居ない。
「ヨシ! これならやれる!」
影龍はそこから急降下して、砂浜に触れるギリギリの高さを滑るように飛んだ。アクアサーペントは少し引きずられている。
「二人とも! 飛び降りて!」
ボスの合図で俺とユイさんは反射的に影龍から飛び降りた。そして、ボス達を目で追う。
「久々にブッ放すぞ! 影龍!!」
その一言で影龍は吠えると、上昇しながらアクアサーペントを少し先の地面へ投げ捨てた。そこに向かって、空色の激しい電気を纏って急降下して一撃を入れた。大爆発のように放出された電気が周囲を明るく照らす。そして、光が収まった時に見えたのは……。
「二人とも、今日はお疲れ様」
ピクピクしているアクアサーペントの喉元に噛みついて抑え込む影龍と、レインコートのフードを目深に引いてこちらに手を降るボスだった。
さて、ついにボスの能力が判明しました!「影龍」…何のひねりも無い名前ですが、変に付け足すと小物っぽくなってしまいそうだったのでこの名前にしています。




