アクアサーペント①
アクアサーペントは、全身を豪雨の降り注ぐ砂浜に現した。ユイさんは一歩引いて何かしている。
「クラーケンッ!! コイツを縛り上げて!」
ユイさんがそう叫ぶと、地面の砂の中から何本も触手が出てきてアクアサーペントを強く地面へ抑えつけた。さらにゆっくりと触手が地面から伸びていき、アクアサーペントの全身をガッシリと縛る。すると、砂浜に固定されてほとんど身動きが取れないアクアサーペントは、気が狂った獣のように吠えて暴れ出した。
(コイツ……理性の欠片もない動きしてやがる。本体が居ないってのはマジみたいだな……)
「さあ、リク君ッ!! 今のうちに総攻撃よ!」
俺はユイさんの合図で、砂浜にクレーターを作る程強い踏み込みでアクアサーペントに斬り掛かった。だが、俺の振る刃は硬い甲殻に弾かれてしまう。そして弾かれてのけぞった俺に、アクアサーペントは容赦ない放電攻撃を浴びせてきた。
(……ッ!? やべぇ、こんなの何回も食らってたら意識が飛ぶぞ)
「リク君ッ!! 大丈夫? 変だ……数百年前に戦った時には、こんな攻撃できなかったはずなのに……」
「進化している……という事なのでしょうか?」
「そう考えた方が良さそうね」
そして今気がついたが、今の電撃でクラーケンの触手がダウンしてしまっているようで、ダランと垂れ下がっている。アクアサーペントはその隙に砂地を這って拘束から抜け出した。そして、海の方へと進んでいった。
(しまった! 逃げられる!)
そう思って追いつこうと走るが、アクアサーペントはその巨体からは考えられない猛スピードで海に入ってしまって見失った。似たタイプの守護獣であるバジリスクの三倍は速いな……
俺達は、完全に見失ったと思い武器を収めた。クラーケンの触手も、引っ込められて消えた。滝のような大雨に打たれる二人のマヌケだけが砂浜に残った。
「……逃がしちゃったかー」
「そうみたいですね」
「ま、しょうがない。アイツが逃げ足速いってのが、何百年経っても奴を殺せない理由の一つだしね」
「そうだったんですね……」
「にしても、厄介な事になったね。雷の汎用属性を獲得してたなんて、聞いたこともない。いつの間にあんなに強くなったのか……」
「とりあえず、逃げられてしまって打てる手立ても無いですし……他の所の警備行きますか」
「そうだねー」
と、ここで俺は雨でギリギリ見えるか見えないかの水面にアクアサーペントの頭が出ているのを見た。じっと俺達の方を見ている。
“グルルルルアアアアアァァァ!!!!”
鳴き声が、微かに俺達の耳に届く。そして、アクアサーペントの頭が水面に消えたのが見えた。急いで三歩前を歩くユイさんに話しかける
「……ユイさん。何かヤバい! ここから離れましょう!」
「え? なんで?」
「さっきアクアサーペントが離れた位置から頭を出してじっと俺達の方を見ていたんですが、目が合った瞬間に潜ったんです。何か仕掛けてくるかもッ……!」
「そうかな? まあ一応離れよう……か…………」
そこで、俺の背後……つまりは砂浜の方を見ていたユイさんが固まる。俺も焦って振り返り、海の様子を確認した。すると、アクアサーペントが無茶苦茶に泳ぎ回って荒波を立てているのが目に入った。そして高波が激しく立つ水面に、アクアサーペントが思いっきり体当たりするように側面から波を立てつつ衝突した。
すると、高さ十メートル弱程の津波が俺達の方に飛んで来た。
「ヤバいヤバいッ!! 逃げるよ! リク君!」
「はい!!!!」
俺達は全力でダッシュして逃げるが、間に合わない。物理的な津波はMDSや茜術じゃあ防げない! このままだと、二人とも津波でじっくり水を注がれた後にアクアサーペントの餌になっちまう!
「二人とも! こっちだ!」
すると、俺達の斜め上から声がした。そこには、工場地帯で世話になったワイバーンと真っ黒のレインコートを目深に着て姿を隠しているボスがいた……顔も体型もよく分からないが、声と雰囲気でボスだと分かる。そして、俺達の方へ急降下して来る。
「さあ、二人とも掴まって!」
俺達は言われるがままにワイバーンへ飛び乗った。工場地帯の時よりも大きくなっていて、三人でも問題なく乗れるようだ。俺達がしっかりと安定した事を確認したワイバーンは、急加速して津波に当たるギリギリの位置をサーフィンでもするように滑空して回避した。
「なんで俺達がヤバいって分かったんですか!?」
「ユイが連絡してくれたんだ! 登録済みの放浪種が暴れてるって!」
(あぁ、あの時後ろで何かしてたのはボスへの報告だったのか……)
「しっかし、アクアサーペントがここまで進化しているとはなぁ……」
「アンタなら倒せるでしょ! 零眼!」
「無茶言うなよユイ……天気雨でも無いし、大人数が巻き込まれて死ぬ可能性も少ない状況で本気を晒すことはできない!」
「そんな……」
「俺もやれるだけの事はやる! だから、リクも協力してくれ!」
「分かりました!」
ワイバーンは津波を乗り越えると、一旦着地した。俺達三人は降りて、それぞれ戦いに備えて構える。




