苦い報告
俺が拠点に帰り着くと、ちょうど敷地内警備に当たっていたヒロと会った。正門を通る俺に降り注ぐ朝焼けが、工場地帯を生き残って帰ってきたヒロとの対比を表しているようで、より虚しい気持ちになる。
「お、リクお疲れ様。そういやぁ、途中からシンジがそっち行ったはずだけど……アイツ一人だけ飲み直しに行ったのかー??」
ヒロの顔を直視できない。散々流した涙が、またこみ上げてくる。
「ヒロ……すまない。シンジさんは…………シンジさんはッ……!! お亡くなりに……ジェーンと出会って、それで…………」
「……そうか」
「俺は、何もできなくて。死体も回収できずに。逃げ帰って……俺だけ逃げ帰っちまったんだあ゛ッ!! う゛わ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁーーーー!!!!!!」
自分のあまりの情けなさに涙が溢れてきた。そして、そんな今の俺の姿があまりにも無様で、さらに強く涙が溢れて来る。
「すまない! すまないぃ!! 死体すら持ち帰れなかった! シンジさんの術はッ! 『魅了する光』はッ……アイツらに奪われちまったぁ!!!!」
「……分かった。上には俺から報告しておこう。本来の処刑任務の方は無事に達成した様だしな。処罰だったりは無いだろう」
ヒロは、そう言うと立ち去ろうとした。あまりにも薄情だ……そう思ってしまった。
「待てよ……オイッ待てよヒロ! 悲しくはないのか!? 涙一つ流さねえのかよ! オイ!」
行き場の無い無力感と絶望を吐き出すかのように、俺はヒロに当たり散らした。最低な人間だ。大事な部下をみすみす死なせてしまった上司の気持ちなんて、ここ五十年で痛いほど理解したつもりだった。ヒロは、ゆっくりと俺の方へ振り返る。
「悲しくない訳が無いだろう……シンジは……俺が育て上げた大事な仲間だ…………辛いに決まってるだろうが……今のお前のようにッ……」
ヒロの目尻には涙が溜まっていた。何か、どうしようもない気持ちを噛みしめるように苦々しい顔をしていた。
「リク……」
「……なんだ?」
「シンジは、実の母親に出会ったんだな? じゃあ…………一つだけ聞きたい」
「あぁ……」
「シンジは……幸せに逝ったか?」
「……そうだな。穏やかな顔で……大好きなヤニを味わいながら、再開を喜んで死んでいったぞ」
「なら良い。いつかは皆死ぬんだ。シンジは、それが偶然今日だったってだけ……」
「でも……」
「顔を上げろ、リク。お前にどうしても晴らせない後悔があるのは理解できる。だが、それはレスパリの奴らにストライクをブチカマす時まで取っておけ」
「……分かった」
「あぁ、それと」
「ん?」
するとヒロは、急に俺に大して深々と頭を下げた
「初の処刑任務、お疲れ様でした。また、私の大切な部下の最後まで隣に居てくれた事を感謝します」
「お、おい。どうしたんだ? 急に」
「ん? あぁ、いや、処刑任務終わった部下には必ずコレやれっていう指示が出てんのよ。だからしゃーなしやってんの」
ヒロは笑いながらそう言った。確かに、処刑任務に関連する労いは義務から来るものなのだろう。だが、シンジさんの最期を見届けた事に関しては、きっと本心なんだろう。
「さ、業務に戻らないとな。お前も、今日は休みだが明日からバリバリ働いてもらうぞ?」
「おう、任せとけ!」
俺はひとまずシンジさんの事を忘れないよう深く胸に刻みつけて、風呂に行く事にした。脱衣所で上着を脱ぐと、キィンッという軽快な音と共に何かが上着のポケットから床に落ちる。拾い上げると、それはシンジさんが使っていた茜術を使うための結晶が付いた指輪だった。きっと、腕を引いて逃げていた時にこっそり入れておいたんだろう。
(この悔しさを、決して忘れるな…………って事ですかい? シンジさん)
俺はそっと上着のポケットへ指輪を戻した。




