コピー
「チッ今ので仕留めきるつもりだったんだけどなぁ……」
「……」
「俺が茜術使えないと思ってナメてただろ? これを見ればなんでか分かるだろ」
標的の男はそう言うと、上着を脱いだ。すると服の内側に隠れていた素肌に、冷ややかな銀色の機械がギッシリ詰められているのが見えた。
「そうか……お前もサイボーグになったんだな」
「正解ぃ!! だが、それだけじゃあないんだなッ!」
標的の男はそう言うと、再び銃を俺の方へ向けた。そして躊躇なく発砲する……だが、放たれた弾丸はなぜか急激に遅く動いている。まるで奴の周辺だけがスローで動いているみたいだ。
(スロー……まさか!?)
そう思って奴の足元を見ると、レールが伸びていた。
(遅延路線!!?)
それを認識した瞬間に、弾丸が急加速して俺の頭部へ飛んで来た。焦って体を反り返したが、額を弾が掠めた。無理やり体を起こして、言葉を返す。
「どんだけ製作所に弄くられてるんだテメェは……」
「フンッ、あの方は偉大だぜぇ? レスパリ幹部の固有術をどうにかこうにかコピーした試作品を俺に取り付けてくれたんだ。お前じゃあ俺には勝てねえ!」
「どうかな」
俺は銃を仕舞うと、支給装備のナイフを取り出した。俺はハジキより刃物の方が扱いやすい。俺は全力で走って標的へ向かう。奴が引き金に掛けている指が、少し力が入って曲がったのを見極めて撃つ直前に回避する。それを数回繰り返すうちに、奴はもう目と鼻の先。
「テメェッ! ナニモンだよ!」
俺はそれに答えない。最早、答えるまでもない。遅延路線はレノだから使いこなせたレノだけの能力だ。レノの片玉魂を取り込んで、フォーマットされた術を使うのならまだしも、何の苦労もせずパチモンのコピー品を手に入れた野郎なんて相手にすらならん。
俺は滑るように体を移動させて、奴の喉元にナイフを突き立てた。
「ちょ、待っ━━」
奴がそう言う前に、俺はナイフをスッと引いて頸動脈を切る。鮮血が飛び散って標的が倒れる。傷口を抑えてビクンビクンしているので、俺は奴の体を足で押さえつけて頭にナイフを投げた。ドッという音と共にナイフが奴の頭部に突き刺さって、標的は完全に動かなくなった。名前を覚えず、『標的』という名前でだけ呼んでいたので罪悪感は全く無い。
一息吐いて周囲を見ると、先ほどの賭場から降りてきた奴らが俺と出来立ての死体を囲んでいた。
(つい派手にやりすぎちまったかな……もし襲って来たら次はコイツらをブッ殺すか。ここの地区の人間は、基本は全員訳ありだから殺しても構わないって言われてるしなー……ヤッちまうか)
そう思い、奴の頭からナイフを引き抜いた瞬間に大歓声が起こった。どれも、俺を称賛する内容に聞こえる。一体どういう事なのか全く分からない。すると、一人の若い兄ちゃんが俺に話しかけてきた。
「アンタすげぇよ! アイツを殺しちまうなんて……礼をさせてくれないか!?」
「えぇ……まあ良いけどよぉ」
「よぉし!! 決まりだな! 野郎共ぉ! 今夜は宴だぁーーー!!」
(コイツ……クッソ嫌われてたんだな。なんだか哀れに見えてきたぜ)
俺は足元に転がっている顔面がグッチャグチャになった死体を見て、ふとそんな事を思った。そして、歓迎される事となった旨を伝えると、念のためにシンジさんを向かわせるとの連絡があった。
しばらく深層スラムの人間と喋りながら待っていると、シンジさんがやってきた。
「リク君お疲れー、初の処刑任務……上手く行ったみたいだね」
「はい! おかげさまで」
「それは良かった。じゃ、その宴とやらを始めようか」
シンジさんはそう言うと、息を大きく吸い込んで集まっている人間達に大声で話しかけた
「うちの部下を暖かく迎えてくれて感謝するッ!! 宴も存分に楽しんで頂いて構わないッ!! ただしッ! ヤクだけは何があっても禁止だぁッ!!!! それを守れない奴は俺が茜術で始末するッ!! ヤクと殺し以外なら何やっても構わないッ! さあ! あとは存分に楽しんでくれ!」
すると、再び大歓声が起こる。何人かは、シンジさんの名前を叫んでいる。どうやら、シンジさんも深層スラムでそこそこ気に入られているようだ……以前にここで任務でもあったのか……?
「さ、今日は明日の事も忘れていっぱい飲むゾー!」
シンジさんはいつもより生き生きしていて楽しそうだ。俺はウキウキで歩くシンジさんの後ろをついて行った。




