処刑任務開始
俺は静かに紅蜘蛛華に照準を合わせて引き金に指を掛ける。呼吸が荒くなっているのを感じるぜ……
「じゃあ、そういうことで。気をつけて━━━━」
微かに会話が聞こえる。そして次の瞬間に華は、俺と戦った時と同じように手首から小さな蜘蛛を飛ばして、ビル群の隙間を抜けて消えていった。
(チッ……逃げられたか。いや、でも少し安心しちまってる自分がいるのが情けねえ)
俺は気を取り直して小さな銃を袖口に仕舞うと立ち上がって、駅入口へ歩いていった。駅は左右二車線づつの大通りに、被さるように建築されている。車道と直角になるように伸びている高架の線路に駅をくっつけたように見える。一階のテナントスペースはほとんど居住地となっているようなので一旦無視して、俺は階段を登って駅の二階……つまり改札や線路がある所に行くと、陽気で派手な音楽と下品な甘い香りが漂ってきた。やはり報告通り、薬膳院駅跡……特に線路部分は酒やらヤニやらクスリやらが横行する完全脱法の賭場になっているらしい。改札横の駅員室だったであろう場所には、やる気がなさそうに座っている男がいた。デスクの上には銃が普通に置かれており、少し奥の場所には金が入った壊れているレジスターがあった。
「ん? 兄ちゃん初めて見るなぁ……入りたいなら金払いな」
「おう、いくらだ?」
「今回は特別サービスで二千円にしといてやるよ」
「ありがてえなぁ、ほれ」
俺はあえて少しクシャッとした状態になった千円札を二枚出した。ヒロ曰く、綺麗すぎる札を出すと甘ったるい環境から来たとナメられてしまうらしいからな。
「ちょっと待っててくれよー」
受付の男はそう言うと、ルーペで俺の出した札をじっくりと見始めた。偽札かどうかを判断しているようだ。俺が持ってきた札は当然本物だが、もし偽札だったらそこにある拳銃で射殺されるんだろうか……
「ん、本物みたいやな。通っていいぞ、楽しみな」
「おう、ありがとよ」
俺は改札を抜けると適当に「三番乗り場」と書いてある階段を登った。すると、先程感じていたアウトローな香りがより濃くなった。そして目の前に広がるのは、地獄にも見える荒れ放題の脱法パーティーだ。線路の部分を出店の立ち並ぶ祭りの道のように改装している……
(オイオイ、思ったよりも人が多いな……どうやって見つければ━━)
そこで俺は、一人の男に目が留まった。
(あ、絶対アイツだわ)
見ると、木箱を積んで作られた簡易的な玉座のような場所に座って酒を飲む小太りの男がいた。聞くに耐えない怒声を飛ばしてゲラゲラ笑っている。
俺は、ゆっくりと腰に差している銃に手を掛けた。そして、引き金を引く。その瞬間に、標的の体はグンッと後ろに引っ張られて弾が外れた。男の体はそのまま落ちていき姿が見えなくなった。俺は急いで銃を収めて高架から顔を出して下を見る。だが、姿が見えない。すると、俺の首に何かが巻き付く感覚があった。
(これは……糸ッ!? まずい、解かないと━━)
急いで振り払おうとするが時既に遅く、俺の体も同様に引っ張られて高架から落ちた。茜力でギリギリ首筋を防御できたので、落下しても一瞬息が詰まった程度で済んだ。そして、首元に絡みついているとても柔い糸をナイフで切り刻んだ。
そして、糸が伸びている元の方に視線をやると案の定、紅蜘蛛華が立っていた。横には標的の男もいる。
「だから気を付けてと言ったでしょ……じゃ、私はマジで帰るから殺られないでね? 頼んだよ?」
「あぁ、すまねぇな……それで、終わったら一発…………どうだい?」
「絞め殺すわよ」
「おぉ、すまねえ。じゃ、後は任せてくれ」
「はぁ、不安だわ。じゃあね」
何やら紅蜘蛛華はかなり不機嫌な様だが……とりあえず戦わずには済みそうだ。
「よぉーし小僧ッ!! 俺が相手だぜぇ!」
「威勢の良いデブだ……それと、一般ピーポーのテメェより茜術持ちの俺の方が確実に年上だぜ? 調子乗んのも大概にせぇや」
俺は冷静に銃口を向ける。いくら茜術が使用できないとしても、ただの一般人に今更負ける気もしないな……
「おっとぉ……舐めてもらっちゃぁ困るぜ?」
標的の男がそう言った瞬間に、目にも止まらぬ速さで奴の手の中に拳銃が現れて俺の脇腹を撃ってきた。
(え……速ッ…………は?)
念の為にMDSを張っていなければ、今ので戦闘不能になっていた……にしても不思議だ。一体今のは何なのか。解明しないと危険だな。
ようやくカッタルい試験が終わったんで、連載再開です!




