処刑任務
「大丈夫か!? リク!」
ショウタさんは、屋上に着くなり心配をしてくれた。かなり飛ばして来たようで、ショウタさんもオウルベルドもかなり疲労しているようだ。
「はい……ただ、さっきジェーン…………シンジさんの母親らしき人に襲われました。もう逃げられましたが」
「……そうか。怪我は?」
「あぁ、それは大丈夫です。それと、ジェーンは盲目なようでした。音や振動で相手の動きを感知しているようです」
「了解。それは有益な情報だ。ありがとう」
「はい」
「じゃ、大丈夫そうなら引き続き警備を頼むよ」
「分かりました」
こうして俺の初日の警備はその後何事もなく終わった。今日の事はもちろんシンジさんには伝えない。そして、一通りの報告業務等が済んだ俺にヒロが話しかけてきた。
「なぁ……リク」
「ん? どうしたヒロ。そんな神妙な顔つきして」
「……ボスからの司令だ。」
「お、おう。今回はサユさんからメールで来るわけじゃないんだな」
「あぁ。『大事なこと』だからな……」
「大事なこと…………??」
「お前に初の処刑任務が課された。明日に向かってくれ。任務終了まで海岸沿いの警備は代わりの者が担当する」
「え……処刑任務??」
「そうだ。うちのシマでハメ外しすぎた野郎を殺す任務。胸糞の悪い奴だから、人間を殺すと考えない方が良いとだけは言っておく。詳細は、今からボスの部屋に行って聞いてくれ」
「……おう。分かった」
ヒロの顔はどこか暗かった。処刑任務……そんなに重大な事なのだろうか。人を殺す事に抵抗が無いという事は決してないが、とっくに俺の手は汚れている。
俺はボスの部屋の前に立つと、重い扉を開けて入った。中にはほんのりと酒の匂いが漂っていて、奥には変わらず背中を向けるようにボスが座っていた。月光がステンドグラスを通って、薄暗い部屋に彩り豊かな光の線がタイルに写っている。
「リク……本日の任務ご苦労だった。ジェーンに関する報告書類も受け取ったよ……とても有益な情報をありがとう。それで呼んだ理由は……分かるね?」
「はい、ヒロから聞きました。処刑任務……ですよね?」
「そうだ。今回の標的は、風俗街から少し離れた深層スラムに済んでいるデラッドという男だ。強姦殺人二件、強盗殺人一件、窃盗多数、恐喝多数、詐欺多数、その他犯罪多数。再三に渡るこちらの指導警告も効果が見られず、苦情も多い……だから、リクにはこの男を始末してほしい」
「その男は……茜術使いなのですか?」
「いや、違う。ただの人間だ。ただ、市街地のド真ん中で尚且つ周囲にそれなりに人が居ることが予想される。だから、リクも茜術は使わないで欲しいんだ」
「えぇ……つまり生身の状態で戦わないといけないんですか?」
「そうだ。あっちの地域の人達は、茜術使いの事を良く思っていない人も多い。だから、そういった多くの事情も含めて、お願いしたい」
「分かりました。謹んでお受け致します」
「それと、君の就寝スペースに支給する武器を置いておいた。使ってくれ。大きな刀は、あっちの地域で携帯してるとかなり危険視されて、最悪襲撃される」
「分かりました。では、明日に向かいます」
「うん、じゃあ頼んだよ」
「はい」
俺はボスの部屋を出ると、就寝スペースへと向かった。見てみると、ベッドの上に拳銃や弾の入ったマガジン、さらにはナイフや催涙スプレーが置かれていた。
(おいおい……こんな治安悪い装備で行けってか? ま、目立ちすぎるよりはマシか)
装備品をまとめてデスクに置いて、俺はベッドへ倒れ込んだ。処刑任務……一体どうなるんだろうか。




