十一番幹部
「『十一眼の契約者』……?」
「あー……もしかして君、最近茜術が開花した人?」
「あぁ、今日からだ。」
「そっか、じゃあ知らないよな。まず、ここら辺の地区を治めてるのは紅蜘蛛華が仕切る『高潔の紅華』通称レスパリと、うちのボスが仕切る『十一眼の契約者』通称十契の二組織なんだよ。そんで、十契とレスパリは仲が悪い。今日こんな風に争ってるのは、手を出さない条約を結んだこの場所をレスパリが勝手に侵略を始めたからだ。それを止めるために俺含めて五人の幹部と、その直営隊が派遣された。」
「じゃあ…アンタ達が正義ってこと……?」
「いや、そうとも言えない。そもそもギャング組織なんて最初から正義じゃないだろ? ただ、レスパリよりも十契のやり方の方が俺は好きだったから、俺はこっちに入ってる。」
「そうなのか……まあ俺の家もレスパリの奴らにブッ壊されたから、俺もレスパリ嫌いだぜ。」
「立ち話もいいけど、一旦移動しよう。まだ残ってるレスパリの構成員がいるかもしれない。死体はすぐ部下に回収させる。」
なぜ死体を回収する必要があるのか……今は考える気力も湧かない。俺はふらつく足を動かして爽やかな眼鏡の男に付いて歩いた。
「アンタ、名前は?」
「俺は三津井 寛。さっきも言った通り、十契の十一番幹部だ。」
「俺はリク。よろしく。」
「おう、よろしく。なあリク、突然の提案で申し訳ないんだが……うちの組織に入ってみないか?」
「え……」
「契約試験さえ通れば入れるし、衣食住が保証される。どうだ? 家壊されたんだろ?」
「なんで俺を誘うんだ?」
「正直言うとな…うちの構成員が足りない。十契の構成員の数は十一人の幹部とボスを含めて百七十八人、対するレスパリはボスと幹部を含めて二百三十三人。傘下の組織の構成員も含めると五百八十六人いる。正直、今こうして均衡を保っているのもかなりギリギリなんだ。だから、力を貸してほしい。」
「スラムらへんなら社会に馴染めず犯罪者になった茜術使いなんていくらでもいるだろうに、なんで誘わないんだ?」
「それはな、うちのボスの方針なんだ。相手が何かして来ない限りは絶対にこっち側から攻撃しない。平和主義なんだよ。そのうえ、仲間だからという曖昧な関係で組織内での違反行為を見逃したりしないように、ボスは構成員全員と契約相手という事務的な関係を持っている。俺も、幹部だがそれ以前にただの契約相手だ。そして、お互いがお互いをフォローしあって上手いことやってる。契約するためには試験があって、それに通らないと契約は認められないから、契約者達は一定以上の強さがある……とまあ、うちの組織はこんな感じだ。十契が二大組織の一角で居られるのは、試験でそれなりの強さが認められた人間が百七十八人居るからだ。それに、うちのボスは多くの伝説を持ってるからな、それに惹かれて来る人もいるんじゃないかな。」
「へぇ……伝説って?」
「例えば……原初の茜術使いの生き残りなんじゃないかって説とか、単騎で潰した犯罪組織の数は両手じゃ数えられないとか……」
「なるほど…なら、入ろうかな。さっき行方不明になった友達も探したいし。」
「お! いいね、それじゃあ……」
ヒロがそこまで言った時、急に言葉を止めて銃を構えた。
「奥の角、曲がった所に敵がいる。二人だ。下がってて、ここは俺がやる。」
ヒロは、少し考えたような顔をすると、見当違いな場所に銃を撃った。何をやってんだと思ったが、放たれた弾は壁に当たると跳弾し、奥の角にスッと消えた。次の瞬間、角から二人が出てきた。
「あっぶねぇな……あ、お前……十契の幹部だな!?」
「二対一で戦いを挑むなんてよぉ、ナメられたもんだぜ!」
二人のうち一人は盾とランスを持った状態で突進してきた。もう片方は狭い路地を活かし、壁の凹凸や積まれた粗大ゴミを踏み台にして読みづらい軌道で猿のように迫ってきた。
「あー、そーゆー感じね……」
ヒロは至って冷静だ。銃を持って走りだすと、真っ直ぐ突進してきた男の盾を踏みつけて、体をフィギュアスケートみたいに縦軸に捻りながら飛び上がり、猿のような男を銃剣で真横に叩き斬って壁に衝突させた。そのまま反対側の壁を蹴って、まだ壁に貼り付けたれた状態の男の頭へ銃剣を突き刺した。さらに、完全に固定された状態の男の頭へ一発射撃したのだ。
「あー……お前らがレスパリの人間なのか聞くの忘れてたな、まあいいや。」
ヒロは銃剣を引き抜いて着地すると、ランスの男に銃を構えた。
「撃ってみなぁ!」
ランスの男は盾を前面に出して構えた。明らかに何かしらの罠だ。だが、ヒロはその盾に向かって銃を撃つ。弾が盾にヒットすると、なぜか弾は盾に触れた瞬間に推進力が消えたようにポトリと地面に落ちた。次の瞬間、男はランスを突き出した。当然距離があってヒロには届かないはずだ。だがしかし、突き出されたのと同時にランスの持ち手から先が唸るように伸びてヒロの方へ先端が進んだ。男は一歩も動いていない。当たる……誰もがそう思った瞬間、ランスは地面に当たってガキンッという音を立てた。ランスの先端は確かにヒロの立っている位置を捉えた。だが、なぜか当たらなかった。そこにヒロの姿が見えない。
「これがお前の固有術ね……いいじゃん。」
そう、ヒロはいつの間にかランスの男の背後に回っていたのだ。
「お前ら……彼岸花の入れ墨してるってことはレスパリの人間だな。」
ヒロはそう言い捨てると、ランスの男が振り返るより先に銃剣で男の背中を突き上げた。




